2.魔王と話しませんか─5
「分かったよぉ、認めるよ魔王様ぁ。ってかさぁ、何で無詠唱で魔法使えるのぉ?」
和んだフランツは、壁に背を預けて頭の後ろに腕を組む。もう襲ってくる気はないようだ。
俺はそれを受けて先程の椅子に再度逆向きに跨がり、背もたれに顎を乗せてフランツを見上げる。
「無詠唱って、問題なのか?魔法なんてのは、イメージの産物だろ。」
「え…?」
「ん?」
考えを言っただけだが、どうやらフランツにとっては意外だったようだ。
けれども俺の場合、それで問題なく魔法を使えてるんだけどな。
「魔王様って、もしかして案外凄い~?」
「は?何が言いたいんだ、フランツ。」
「普通に魔族は魔力を持ってるけどさぁ、無詠唱で魔法なんて使えないんだよねぇ。だいたい、魔王様の使う魔法は俺等のと違ってるしぃ。」
指摘されて初めて気付く。
そう言えば、あの誘拐された時は麻痺する身体と異常な痛覚刺激のせいで、イメージも何もなかったなと思い出した。あれ…声は出せなかったけど、冷静にイメージ出来ていれば魔法を発動する事が出来たかもしれない。
それに、鬼族のレジスとルフィノと戦った時だ。あの時は精神的に余裕だったから、アイツ等の体術と魔法の合わせ技にも容易に対処が出来たのである。イメージ重視という事は、己の精神面が大きく反映されるという長所とも短所とも言える事実が明らかになった。
「なるほど。ありがとな、フランツ。」
「え~?俺、何かお礼を言われるような事をしたかなぁ?まぁ、お礼って言うなら一口…。」
笑みを向けて感謝の意を表す俺に、フランツは牙を剥き出してくる。
残念だが、血を吸わせてやる義理はない。
「ブブーッ、アウト~。お前は高位の魔族なんだから、大気中の魔力を摂取出来るだろ。わざわざ獣人族や人族を襲うなよ。因みに、俺もダメ。」
フランツの顎辺りを片手で押し上げ、奴の犬歯を視界から遠ざけた。
ダメなんだよ、それ。トラウマに触れるなっての。
「ちぇ~っ。魔王様には魅了も効かないし、こうなったら言質をとってやろうと思ったのになぁ。」
「いや、だからな。たぶん俺の血は、魔王たる闇魔力が強すぎて腹を壊すぞ?純然たる魔力じゃないからな。」
「あ、それ分かるぅ。前に誘拐された時、酷い怪我をしたらしいけど全く美味しい匂いがしなかったもんねぇ。あの時の魔王様は闇魔力に包まれていたけど、普通ならそれでも食糧臭がプンプンするのにさぁ。」
結構な言われようである。
だが実際、俺の血には闇魔力が多く含まれていた。血の一滴すら、敵意を持つものに対して攻撃しようとする性質を持つ。これは試してみたから間違いはない。