2.魔王と話しませんか─3
体調に問題がない事を確認し、フランツに向けて口を開こうとした瞬間。
ドガッ!
突然物凄い音と共に扉が開け放たれ、銀髪の長身が飛び込んできた。
「魔王様っ!」
その必死の形相に、俺は開いた口を閉じる事も忘れて視線だけでダミアンを凝視する。
乱れた髪から、酷く慌てて走ってきたのは分かる──が、背後でプラプラと揺れている扉はどうするつもりだ。蝶番が明らかに一つ壊れてるだろ。
「魔王様っ!お変わりないですかっ?」
ベタベタと身体を触り、俺に異常がないかを確認しているようなダミアン。だがしかし、鬱陶しい。
「もう良い、大丈夫だ。」
目の前で揺れる角を押し返し、ダミアンを離そうとする。
「ですが…っ。」
「うるさい。呼んでないだろ、俺は。つか、来るまでに何を壊してきた。ここの扉も壊しやがって。全部直してこい。」
「魔王様っ。」
「うるさい。仕事を増やすなよ、ったく。早く行け。終えるまで接近禁止。」
「は…はい、畏まりました。御前、失礼いたします。」
物凄く腑に落ちない表情を浮かべながらも、ダミアンは退室していった。勿論、フランツに鋭い視線を向けていくのを忘れずに。
「はぁ…。さてと、フランツ。さっきのお前の行動は減点だ。感情のままに言動を起こすな。」
「…っ。」
ダミアンが出ていったのを確認して一呼吸つくと、俺はフランツに真っ直ぐ向き合って告げる。顔を歪ませたが、すぐに攻撃はされなかった。
何だかんだいっても、こういう時に駆け付けてくるダミアンに少し感謝しつつ、フランツをどうしたものかと考える。
「話さなきゃ分からないだろ。お前だって、地位と名誉の為に候補者になったって言ってただろうが。俺が魔王になったのは今更変えられないし、お前が俺を殺す事も出来ない。仮に俺の命を奪う事が出来たとしても、その後一族郎党殲滅されたくはないだろ。」
俺は小さく溜め息をついた後、フランツに淡々と告げた。
コイツは、頭が悪くないから理解してはいるんだ。俺が人族ではない事も、いつまでも人族を憎んでいられない事も。ただ納得しきれていないだけ。
「…分かってるよぉ、魔王様ぁ。人族のように繁殖出来れば、今頃一族も元の規模になってるのにな~とか、この100年で人族はあの時以上の頭数になってやがるな~とか考えて、ちょっと頭に来てただけだよぉ。」
ヘラリと笑みを浮かべてみせるフランツは、その真っ赤な髪を掻き上げながら外に視線を向けた。
少しだけ哀愁を感じるのは、気のせいではないだろう。
そう。魔族は人と違って、数を増やす事に適してないのだ。雌雄は存在するものの、元々人族よりも寿命の長い生命体である。高位の魔族になればなる程に子孫が増えにくかった。故に、フランツの言葉になる。