2.魔王と話しませんか─2
「お前に何が分かるっ。繁殖力の塊のような猿が!」
「分かんねぇよっ!つか、猿じゃねぇ!」
襟元を掴み上げられたまま、俺は怒鳴り付けるフランツに感情のまま声を荒らげる。
もはや俺達は、額がつきそうな程の間近で睨み合っていた。
「100年も前の事をいつまでもグシグジ言いやがって…、女々しいんだよっ。」
「っ!」
歴史上、その争いは100年前に終結している。と、俺は事実を告げた──のが、余計にフランツの神経を刺した。
一瞬の浮遊感の後、背中と首に物凄い圧力が掛かる。俺はそのまま地面に叩き付けられたようだ。
「ぐは…っ。」
強制的に肺から押し出される空気。
その後も首元を締め付けるようにフランツに押し付けられている為、新たな空気を得る事も出来ない。
ふざけやがって…、風刃っ!
声を出せない状態ではあるが、俺は頭に来ていた。
そして深く考える事なく、フランツ目掛けて風の刃を放つ。イメージでは奴の顔サイズ。
「っ!」
さすがにこの距離では完全に避ける事が出来なかったようで、羽根を使って勢い良く後退した筈のフランツの頬に5センチ程の切り傷が刻まれ、そこから黒い霧が空中に拡散していた。
「ゴホッ、ゲホッ…。ざま、みろ…っ。」
急に肺に入った空気に酷く噎せつつも、俺は何とかそれだけフランツに告げる。
だがフランツは自分の顔の傷よりも、俺の方を見て酷く驚いているようだった。
「はぁ…っ。何だよ、文句があるのか?」
呼吸を整え、俺は床に尻をつけたまま半身を起こす。
立っているフランツに対しては、酷く見上げないとならないがやむを得ない。
「…無詠唱、だと?」
不意に、呟くようにフランツが告げた一言。
俺にはそれに何の問題があるのか全く分からないが。
「だから何だ。」
憮然と言い返す。
驚愕しているフランツには悪いが、俺はさっきのお前の行動の方が驚きだと言いたかった。他の候補者達とも連結されている俺に対し、あの行動は拙い。明らかに、反逆行為と取られても仕方のない行動だった。
ダミアン辺りが特攻する勢いで駆け付けて来なかったのは、本当に奇蹟に近い。
フランツが攻撃してこない事を見越し、俺は立ち上がって乱れた服を整える。少し首がヒリヒリするが、背中の痛みに比べたら大した事はなかった。
つか、マジ覚えてろよっ。えっと、回復とか治癒とか…。魔王知識に見当たらないな。ま、良いか。とにかくイメージだ。
俺は麻酔の効果を連想し、痛覚を和らげる。その後、恐らく打撲状態になっているだろうからと、新陳代謝を促進。時間を早送りするようなイメージで肉体を再生し、その後に麻酔の効果を解除したのだった。