1.魔王は人ではありません─8
「炎装、風壁解除─俺の周りのみ─。」
俺は全身に炎の鎧を纏い、自分の周りの風防御壁だけを取り消す。ちなみに、部分的命令は俺のイメージなので、実際に口に出している訳ではない。
だってそんな事してたら、全てが周囲に筒抜けになるじゃん。
俺の魔力変化に、レジスが一旦距離を置く。
見ている限り、彼の属性は水。魔族の中でも稀な多属性持ちは、魔王知識の中でも竜族を除けばダミアンくらいだ。
「来いよ、レジス。」
俺は腰に佩いた剣を軽く構え、レジスを挑発する。
「お前っ!俺の名を軽々しく呼ぶなっ!」
牙を剥き出して叫ぶレジス。
ギンと目を見開くと、猪もビックリな猪突猛進ぷりで突っ込んで来た。
うん、もう少し考えろって。
そう言いたいのは山々だが、煽ったのは俺の方。
倍程の身長差がある俺達だけど、ここはさすが魔王なだけはある。いや、俺なんだけど。
渾身の力で幾度も振り落とされる曲刀の攻撃を、指揮棒を振るかのように横へ流していた。
見た目の細さからは信じられないだろうけど、これが俺っていう魔王なんだな。
その場から一歩も動く事なく、レジスの攻撃を流している。あ、しかも片手でね。
「剣筋は良いけど単調だよね。ほら、脇が甘い。」
ガンガンと剣がぶつかり合う中で、俺は流したレジスの曲刀の反対側、左脇腹を横から蹴り飛ばしてやった。
思い切り不意を突かれたからか、素直に右側へ飛んでいくレジス。けど、当たり前のようにソコにはルフィノがいて。
「いつも忠告していますよね、レジス。」
「ぅぐ……っ。」
軽々とレジスの巨体を受け止め、更に説教を垂れた。
どうやら、レジスの脇の甘さは今に始まった事ではないらしい。
「二人で行きますよ。」
「……おぅ。」
ルフィノの言葉に腑に落ちないながらも、レジスは再び曲刀を構えた。
「いつでも良いよ~。」
軽く応答してやるが、実際には俺、少し緊張してたり。
だってルフィノの奴、絶対に素直じゃない攻撃をしてくる。
って思うそばから、直線的なレジスの攻撃に紛れ、変則的な動きでレイピアのような細身の刀身を突き付けて来ていた。
レジスの剣筋は相変わらず力のみのものだが、それにルフィノの突きが加わると凄まじい。
魔王知識をフルに動かし、学校で剣道の授業くらいしか剣─いや、あの場合は竹刀だけど─を持った事がない俺は二人の剣戟を受け、弾き、時には流す。
本当にちょっと、誰か誉めてほしいよ。スゴくない?
内心遠い目をしている俺だけど、実際の肉体はこれでもかって程にヒュンヒュンと剣を振っている訳だ。マジ、俺凄い。