1.魔王は人ではありません─7
「この風魔法はかなり強固です。一点集中でいかなければ、我々の力差では突破出来ません。」
ルフィノが静かに告げる。
「なっ!?人族だぞっ?」
「分かってはいるのでしょう?あれはただの人族ではありません。魔王の気配を持ち、魔王の魔力を見せています。」
あくまでも見た目で俺を愚弄するレジスに、ルフィノは目を細めて問い掛けた。
つまりは、冷静に俺を観察すれば分かると言う意味だろう。
実際俺の身体からは、無意識下で溢れ出す魔力がある。
「~~~っ、だがっ。」
「レジス。」
「っ……、分かったよ。一点集中だな。」
尚も言い募ろうとしたが、ルフィノから静かに名を呼ばれて諦めたようだ。
やはり、ルフィノがレジスをコントロールしている。
─一点集中、ね。
ギリギリと犬歯を軋ませながら、レジスが曲刀を片手に肩を回して歩み寄ってきた。
「セェェェイッ!」
ガキィィン!と、物凄い甲高い音が響き渡る。
レジスが己の曲刀に水魔法を乗せ、俺の風防御魔法壁にぶち当てたのだ。
「おぉ~、馬鹿力だねぇ。」
僅かな時差の後、防御壁と曲刀がビリビリと空気を震わせる。
だが、それまでだった。俺の防御魔法は、こんな程度じゃ揺るがない。
ちなみに、今まで俺に襲い掛かって来ていた亜人族と獣人族。彼等は、鬼族のレジスとルフィノの迫力に負け、周囲を取り囲むだけで近付いても来なかった。
「…なるほど。これだけ緻密に編み込まれた防御壁は、なかなか見た事がありません。ですが…それだけですか、魔王の名を継ぐ者よ。」
レジスを後ろから見守る形のルフィノが、静かに告げる。
ちなみに、俺に対して話し掛けてきたのは初めてだ。
「何。俺を煽ってる?」
「いいえ。ただ、これは模擬戦です。防御壁の中に閉じ籠もるだけでは、勝ちとは言えないのではと思いまして。」
片眉を上げるように俺が問うと、視線を逸らす事なくルフィノが答える。
うん。やっぱりコイツ、なかなかにやるね。
「そっか。このままタイムアップまで遊ぼうかと思ったけど、俺も暇じゃなかったや。模擬戦中じゃ、フランツの観察もまともに出来ないし…。ヤっちゃっても良い?」
ニッコリと微笑み返してやった。
視界の端で、レジスがスッゴい顔してるけどな。
「我々が王と仰ぐべき相手か、キチンと見極めさせていただきます。」
「はいは~い。んじゃ、ちょっと本気出しちゃおうかなっ。」
口調だけが丁寧なルフィノ。その、全く従う気のない相手に、俺は少しばかり力を見せようと決めた。
確かに、弱い頭は要らないからな。たぶん、空中に留まっている竜族達も、同じ事を思っているだろう。
俺はあまり傷付けたくはないと思いつつも、力を示さねばならないのだからと嘆息するのだった。




