1.魔王は人ではありません─6
「さすがに、魔王の知識と魔力を受け継いでいるだけの事はあります。レジス、少し落ち着きなさい。」
静かに告げたのは、青鬼と共に俺の前に出てきた片割れ。─こっちは対照的に、真っ赤な肌をした1本角の赤鬼だ。
レジスと呼ばれた青鬼と体格も対照的で、筋肉質の大柄な青に対して、赤は細身の体躯をしている。
そして色が持つイメージとは異なり、青鬼は暴走型、赤鬼は冷静沈着タイプのようだった。
「うるさい、ルフィノ。人族に小馬鹿にされて、黙っていられるか!」
剣を引く事なく、叫び返す青鬼。
赤鬼はルフィノと言うらしいが、青鬼レジスは俺の風魔法壁に水魔法込みで攻撃してきている。
ドリルのような尖端の水柱を幾つも出し、曲刀と同時攻撃を繰り出していた。
ってか、また人族扱い。
俺は自分が人ではなくなっていると自覚があるから、その言われようが逆に酷く苛立つ。─好きで“人でなし”になった訳じゃないんだ。
「水針。」
俺は自分の風魔法壁の外に、細く凝縮した30センチ程の水の針をイメージする。そしてレジス目掛けて放った。
「グッ?!」
鋭い痛みを肩に受け、曲刀もろとも右側に大きく傾くレジス。
どうやら自分の攻撃に夢中で、俺の水の針に気付かなかったようである。これだから、短絡的な脳筋は困る。
「なっ…、何をしたっ?!」
混乱しつつ、右肩を押さえるレジス。
意識が乱れた瞬間に、彼の水魔法も掻き消えていた。
「レジス、落ち着きなさい。貴方は攻撃されたのです。」
体勢を崩しているレジスの背に回ったルフィノは、彼の肩を軽くつつく。
そこで漸く、己の右肩負傷に気付くレジス。脊髄反射のように左手で押さえた場所からは、黒い靄が滲み出ていた。
「テメエっ!」
「待ちなさい、レジス。」
カッとなったレジスの左肩に触れ、ルフィノが静かに告げる。
だが軽く触れているように見せて、実はかなりの馬鹿力らしい。暴走しそうな筋肉ダルマを、片腕だけで軽く動けなくしているのだ。
この見た目の細さからは想像つかないほど、ルフィノは強いという事はなのだろう。
「~~~っ、放せよっ。」
「落ち着きなさいと言っています。」
レジスはその青い肌の為に見た目では分からないが、かなり激昂しているようだ。
それでもルフィノに真っ直ぐ視線を覗き込まれ、歯噛みするだけで腕を払う事もしない。─出来ないのか。
「アンタ等は、良いパートナーのようだな。」
それを目の前で繰り広げられている俺は、微笑ましく思えてならなかった。
だが、今は模擬戦の真っ最中である。
俺は再び魔法を放つべく、イメージを練り始めた。