1.魔王になりました─3
「魔王様がお力をお持ちの事実は、十二分に分かりました。ですが、早々にここを発った方が宜しいかと存じます。」
自然破壊に心痛める俺─少しだけだがな、悪いか─をよそに、ダミアンが再び急かしてきた。
根本的原因は、明らかにお前がだろうが、変態っ。俺の鉄拳を食らわなかっただけ、ありがたいと思えよ。
「ダミアン、次は落とすなよ?」
とりあえずそんな本音を欠片も出さず、釘を刺しておく。
内心は伏せておくに限る。
「はいっ。勿論にございます!では魔王様、改めて失礼致します。」
そして、また姫抱き。
何の疑問もなく、ダミアンは俺の膝裏に手を潜らせたのだ。
立ち並んで良く分かったけど、俺の身長はダミアンの胸辺りまでしかない。
って、俺がチビなんじゃないぞっ?コイツがデカイんだっ。
俺は175センチ以上あったんだ。春の計測だけど、多分、今はそれ以上ある筈。
「いや、ちょっと待て。この体勢はどうにかならないのか?」
「申し訳ございません。わたくしが魔法でお連れする事が出来れば良いのですが、なにぶん魔王様は、認証の儀もまだ執り行っておられない肉体でございます。恐らく、現状の耐久度は…。」
潤んだ瞳で言葉を濁すダミアン。
何なんだよ。方法はあるけど、俺の方が耐えられないって話か?
「分かったよ、もう…面倒臭いな。さっさとしろ。」
これ以上は問うまいと、決意する。
とにかく俺にとって、ここが完全にアウェイなのは理解出来た。
「では、出立したします。」
「はい、はい。」
恭しく、ここでも頭を下げるんだな。
俺は投げ遣りな返答を返し、少しでも早くこの屈辱的な体勢が終わる事を祈るしかなかった。
◆ ◆ ◆
何処までも続くと思われた森が、突然を終わりを迎える。次に現れたのは、不自然に隆起した大地だった。
どの程度の高さがあるか分からないけど、ダミアンが直角的に上昇飛行をするくらいだ。まぁパッと見、壁だな。
お?何か、上に建物が見えてるぞ。ってか、黒いな。
見た目は…幾つもの尖塔がある、俗に言う城だ。でも、色は黒。灰色じゃないぞ?真っ黒だ。
そして疑いようもなく、ダミアンがそれに向かって降下し始める。
…魔王城、なんだよな。
見上げて思う、威圧感ある佇まい。
「魔王様。こちらが魔王城にございます。」
全くの衝撃もなく、フワリと地面に降り立ったダミアン。そして俺を静かに大地に下ろした。
振り返って見てみると、彼の鳥っぽい羽根は、背中に行儀良く畳まれている。
焦げ茶色で、鷲などの猛禽類の翼に似ている。まぁ、間接部分に爪っぽい物が飛び出てるけどな。
ついでに、ダミアンの銀髪ロン毛は、背中の中程で軽く纏められていた。