1.魔王は人ではありません─5
俺の張り巡らせた風の防御魔法壁。それに向かって、獣人族と亜族の魔法攻撃が続けざまに放たれている。
けど正直、飽きた。─誰がって、俺が。
そこで俺は、魔法壁に新たなイメージを送る。
拡張し、周囲を押し退ける形で魔力を練った。
その新しい命令を受け、風船を膨らませるように、俺を囲む風の防御魔法壁が周囲に広がっていく。
「へぇ?」
楽しそうな声が聞こえ、声の主─フランツに視線を向けると、何故だか楽しそうに笑みを浮かべていた。
さっきまでとは違う、純粋に喜んでいる様子。
「何?参加したくなった?」
俺は、わざとフランツを煽るように声をかけてやる。
けれどさすがと言うべきか、軽く鼻で笑われただけだった。のってこない。
あ、そんなふうに意識をよそへ向けていた事が気に入らなかったのか、次は鬼族の登場だ。
基本的に、鬼族は見目が良い。
人形である事が大半で、角があったりガタイが大きかったりするが、容姿が整っていると言った方が分かりやすいか。
力あるものにありがちな、特殊仕様なんだろう。─勿論、単にゴツい奴もいるけど。
それらの内から二人、それぞれの武器をもって中央にいる俺に歩み寄って来た。
ちなみに今は、風の防御魔法が緩くなっている。─さっき広げたからな。
「お前、本気で魔王を名乗る気があるのか?」
歩み寄って来た、青い方の鬼族が口を開く。
昔話で見た事のある、青鬼ってこうだろ的な、肌の青いモジャモジャ頭の2本角だ。
「名乗るも何も、俺は既に魔王だ。」
「…ただ継承するだけでは、誰もついては来ない。」
即答する俺に、青い肌の鬼─青鬼で良いか─は返してくる。
つくづく、俺って嫌われてない?
「知ってるよ、そんな事。だからとりあえず、宰相候補を自分の目で見る為に、こうやって回ってるんだ。」
負けじと言い返し、さらには煽るように腕を組んで立つ。
青鬼は大振りの曲刀をぶら下げているが、俺は武器を手にしてもいない状態。
「死んで後悔するが良い。」
スッと目を細めた青鬼は、その残像が見えるのではないかという速度で俺に突っ込んできた。
「風壁─俺の周囲─。」
勿論俺は、頭の中にあらかじめ用意していた風の防御壁を発動させ、青鬼の曲刀を正面から受ける。
ガキンッ、と激しい衝突音が空気を震わせた。
俺の風魔法の壁は、魔法攻撃にも物理攻撃にも対応している。
強度は魔法自体を、どれだけ緻密に組み上げるかによって変わる。だが俺的感覚で魔法はイメージ重視だから、ゲームやアニメなどの創作物に慣れ親しんだ現代人としては、至極容易な事だった。