1.魔王は人ではありません─4
ニマッとフランツが黒い笑みを浮かべようが、俺は模擬戦をすると決めたのである。
「んじゃあ~…、騎士団各部隊長。魔王様との模擬戦を開始する。勝利条件はどちらかの降参、もしくは日暮れまで。散!」
フランツが鋭く命じ、各部隊長がそれに答えて周囲に散った。
正確には、俺の周囲を取り囲むように立ち位置を変えたのである。
本気でヤる気。面白い程に殺気を感じた。
まず手始めに、一番図体の大きな竜族が飛び上がる。
だがその動きは陽動で、実際には亜族達が獣人族と共に大振りの剣で斬りかかってきた。
勿論本物─キレッキレの真剣なんだが、彼等は全く手加減をする気はないらしい。
俺としては相手を殺す気はないから、これまた厳しい対応を迫られる。
でも要は、弾き返せば良い。
「風壁─俺の周囲─。」
そう思い至った俺は、自分の周囲に風の防御魔法を展開する。
攻撃転用可能な風の壁を、俺の周囲を張り巡らせる形でイメージ─発動。
各部隊長達の攻撃を、軽々と弾き返した。
獣人族も亜族も、個々の種族差で大きさが異なる。
これ等全てに対応するには、実際問題として数が多すぎるのだ。
俺は、誰一人として殺したくはないから。
だが、魔族である彼等も甘くはない。
弾かれたくらいで諦めてくれる程、温い性格を持ち合わせてはいないようだ。
簡単にいえば、魔法攻撃に切り替えてきたのである。
俺の風の防御魔法壁に、ガンガンと様々な魔法が当てられた。火、水、氷、雷、土。
中には、同系統の風魔法を当ててくる部隊長もいる。
ここは鍛練場だから、地上にあるとはいえ、地下の鍛練場と同様に対魔法結界があるのだ。
けどさすがに、地下のよりは強度に問題がある。
俺の風の防御魔法に弾かれた各魔法が、その度に鍛練場を取り囲む結界にぶち当たり、揺らしていた。
これ、壊しそうだな。
「風壁─鍛練場全て─。」
壊してしまえば、後々問題が出そうと判断した俺。
鍛練場全てを取り囲む風の防御魔法を、即座に張り巡らせた。勿論、小声で。
現在進行形で、各部隊長との模擬戦最中の俺。
魔王故の有り余る魔力を使って、周囲への配慮をするのは俺的には当たり前だけど。各部隊長はそれが気に入るか分からないからな。
つまりは、自分達の力を侮っているのか、とか言われかねないし。
けど実際、侮られているのは俺の方。
人族としての見目に、各部隊長達は獣人族と亜族だけで攻撃をしてきた。
鬼族、ましてや竜族の出番はないと思っての事だよな。
これでも俺、魔王だよ?
勿論、力も記憶も、しっかり引き継いでるんだけど。
舐めてかかってるとマジ、痛い目みるぜ?