1.魔王は人ではありません─3
そして俺は宣言通り、フランツの周囲をウロウロとしながら観察を始める。
フランツは主に、軍部の取りまとめをしているらしい。
鍛練場に騎士団が部隊ごとに並び、それに対してフランツが指示を出しているようだ。
まぁ、騎士団といっても魔族。大きさはそれぞれだし、とてもじゃないがまとめて一つの指示って訳にもいかない。
何せ、蟻と象以上の体格差があるのだ。
それでもフランツは、それぞれに的確な役割をふっている。
これ、本当に優秀でないとダメだろ。
全体を見回す意識、能力を見抜く目。数多く多種族が集まるが故、あちらこちらで発生するいざこざを聞き取る耳。人を惹き付ける声、最適な策を練る頭。
インゴフが言うように、次期宰相候補者は現魔族の中で、本当に優秀な人物が選出されているようだ。
問題は、魔王が俺って事。
これが一番問題だと、改めて思う。─まぁ、今更変更不可なんだろうけどさ。
その時不意に、フランツの視線が俺に向けられる。
ん?
危うく首を傾げそうになったが、とりあえずセーフ。
俺は、次期宰相候補者達と連結している。だがそれは、感情と魔力を大きく揺さぶられない限り、これは個として有り得るという事実である。
ってか、内心の全てを監視されたくないっての。
そんな必死にポーカーフェイスを保っている俺に、事もあろうか、フランツの奴が名指しして来た。
「…ってな感じでぇ。魔王様と模擬戦だよ~?」
大仰に両手を振り、騎士団達に告げるフランツ。
どうやら騎士団の各部隊長を相手に、手合わせと言う名のリンチを俺に仕掛けるらしい。
いやいや、冗談だろ。
日本人の悲しい性か、俺は突然の事態にヘラッと愛想笑いをしてしまった。
そして結論、それが不味かったようである。
俺がバカにしたかのように取った各部隊長達は、一斉に武器を構えて前に踏み出した。
勿論先程も言った通り、大きさはそれぞれである。
ビル3階くらいから、掌に軽く乗る奴まで─多種多様な魔族のオンパレードだ。
「さぁ、魔王様?軽く準備体操くらいにしかならないだろうけど、各部隊長達も魔王様の力がみたいんだってさ~。まぁ、当たり前だけどねぇ。自分達が守るべき相手か、彼等も見極めたいだろうからさぁ?」
ニッコリと笑顔を浮かべるフランツには、全くといって良い程、悪意がない。
つまりは本気でそう思われている訳で、フランツ以外の魔族からの評価も同じなのだろう。
冗談としか言いようがないが、実際に俺もこれから先の人生─魔王生がある。
常に仲間となる周囲から敵意を浴びたくはないし、前魔王を倒した勇者の事もあるのだ。
いずれ大きな力を持つ者と戦う定めならば、味方は確実につけておきたい。ってか、そう出来なければ俺の存在価値がないだろう。
「…分かった。」
そう言わざるを得ない状況だろうが、もう知った事か。
俺はハッキリと了承の意を示したのだった。