6.魔王は売約済みです─9
「わ、私は小さくないですぅ。」
抱き上げてるリミドラが、思い切り不満を顔に出している。
しかし、唇を尖らせて頬を膨らませたところで、可愛いだけなのだ。
「いや、小さいと言ってもだな。その…、幼いと言うか…。」
説明に困り、言い淀む。
そもそも、俺にロリの趣味はない。
13歳と言っていたが、どうみても幼女体型なのだ。背丈は130センチ程だが胸はなく、むしろ腹部の方が出ている。
「そ、そりゃ…ご飯は1日2食、食べられたら良い方ですけど…。」
自分の身体を見るように視線を下げるリミドラ。
うん、成長に伴う栄養が足りてないんだろうな。
「…それ、普通なのか?」
僅かに眉根を寄せた俺だったが、リミドラは急に不安を見せた。
「ご、ごめんなさい、魔王様。獣人族の食事量が多い事は分かっています。」
そして突然の謝罪である。
えっ?何?俺、謝らせるような事を聞いた?ってか、食事量が多い?
言葉に出さずとも、俺の頭の中は疑問と焦りで混乱していた。
すると、俺の背後から天の声─じゃなく、ダミアンの声が聞こえる。
「恐れながら、魔王様。魔族の食事は人族と異なり、日に3食ではございません。力ある魔族ほど、大気中の魔力から摂取する事が可能になる為、食事の回数が減るのです。…ともあれ、今そのお話はお控えくださいませ。お二方の仲の良さをお見せ頂く場にございます。」
淡々と小声で告げられた俺は、不意に現状を思い出した。
ヤバ…、今は式の最中だったぜ。
「リミドラ。とりあえず、この話は後でな。それに怒ってる訳じゃないから。」
「…はい、魔王様。」
慌ててリミドラの顔を見る。
ダメだ、不安感が抜けてない。
不興を買ったと思っているのか、眉尻を下げるリミドラは、明らかに先程までと空気が違う。
くそ…、俺のミスだな。ダミアンの言うように、今ここで話す内容じゃなかった。
しかしながら、反省をしたところで、言い放った言葉を元に戻す事は出来ない。
必要なのは、現状をいかに早く復帰させるか。
「リミドラ…。」
「…っ!」
声を掛け、不安そうに見上げた鼻先にキスをする。
いや、俺もメッチャ恥ずかしいんだからなっ。
こんなに大勢の人前─あ、魔族前、か?─で、鼻とはいえ、キスをするなんて、思ってもみなかった。
観衆の一斉に囃し立てる声が周囲の音を消し、顔を真っ赤にしたリミドラと目が合う。
「これでちゃんとした婚約者だな。」
どうしても照れが残るが、俺はハッキリと言葉にして告げた。
これから先も、何かに不安になる事もあるだろうが、事実は変えられない。
俺はリミドラにも、事実を認識してほしいと思った。
「はい、魔王様。」
頬を赤く染めながらも、フワリと微笑むリミドラ。
決して軽くはないのだが、俺は抱き上げている彼女を更に高く持ち上げる。
それに呼応して、歓声がいっそう大きくなった。
まだ魔王になって何も残してない俺だけど、彼女を誠心誠意、守ると誓おう。
俺は観衆に手を振るリミドラに視線を向け、知らず柔らかい笑みを浮かべていた。