6.魔王は売約済みです─7
僅かに揺れる大きな金色の瞳。
この世界の─魔族の瞳の色に、俺はもうすっかり慣れてしまっていた。
「取り消すなら、今しかないがな。」
少しだけ自嘲気味に笑う。
さっきまで俺も、散々ダミアンにぐずっていたんだから。
「そんな事、ないです。ただ…、魔王様のお気持ちも考えず…勝手な事をしてしまって、申し訳ございませんでした。」
勢い良く頭を下げるリミドラ。
一瞬驚いたが、何だか逆にスッキリとした気持ちになる。
あぁ…俺、自分の意思を確認して欲しかったんだ、って気付いたからだ。
「うん。何かもう、その言葉だけで良いよ。」
俺は空いたもう片方の手で、リミドラの頭を優しく撫でる。
「あの…許して、頂けるのですか?」
おずおずと顔を上げるリミドラだが、垂れていた尻尾が微妙に上を向いて揺れていた。
確か犬の尻尾って、感情が外に出るんだったよな。
そんな事を思いながら、俺はリミドラに笑い掛ける。
「許すも何も、俺は怒ってないからさ。」
そう。怒ってはいない。腑に落ちなかっただけだ。
「あの、でも…っ。」
「じゃあ、リミドラはどうなんだ?俺の嫁に、本気でなる気か?」
更に言い募るリミドラに、俺は真顔で問い掛ける。
「も、勿論ですっ。あ、魔王様が…お嫌でなければ…ですけど…。」
勢い良く返事をしたものの、後半フェードアウトしていく声。
どうやら、自信が続かないらしい。
周りに色々言われたのか、出会った時の勢いがないな。
「俺は正直、面倒だと思ってた。でもまぁ、リミドラとなら上手くやっていけるかも…。何て偉そうな事言っても、まだお互いを知っている訳じゃないんだけどな。」
俺の初めの言葉で耳と尾がまた力をなくすが、話の進行と共に少しずつ蘇る。
あまりにも分かりやすい感情バロメーターに、俺はとうとう笑いを堪えきれなくなった。
「くくくくく…。」
「ほぇ?…な、何ですか?何で魔王様、笑ってるんです?僕は真剣なのに…、魔王様っ。」
俺の押し殺したような笑いに、一瞬呆けたリミドラが、顔を真っ赤にして怒る。
「いや…、可愛いなと、思ってさ。」
笑いながらだから、言葉が変に途切れてしまう。
けど、本音だった。
こんな風に女子と話すの、学生生活ではなくなってたな。
小学校の頃にはあった異性との会話も、中学・高校へ行くのと比例して、同性だけのものになっていった。
正直、モテた訳じゃないし。
今の俺に興味を持たれるのは、あの頃になかった特別があるからなんだ。
魔王なんて肩書きがなかったら、やっぱり俺は今も、─悲しいかな─特別にはなれてないんだと思う。