6.魔王は売約済みです─5
「魔王様?」
いつまで経っても声が掛からない事に痺れを切らしたのか、扉の向こうからリミドラが顔を出す。
右側の白い犬耳が忙しなく、それでも不安げにピクピク動いていた。
「おぉ、リミドラ。やっぱり着飾ると、女の子は綺麗だな。」
俺は視界に映った彼女の姿に、素直に感想を口にする。
「ワフッ!?」
だがその瞬間、ボンと首まで赤くなるリミドラ。
ん?俺、変な事を言ったか?
思わず小首を傾るが、すぐにミカエラに俺の気が引かれた。
マジ、腕にいきなりしなだれ掛かってこられたら、嫌でも意識を持ってかれるって。
「もぅ~、蒼真ぁ。わっちも、そんな嬉しい言葉を、掛けてほしいのぉ~。」
「こらっ、ミカエラ!離れなさいっ。」
慌てて引き離そうとするダミアンとミカエラの攻防になり、俺は二人から腕を取り合われる。
「っ!」
痛みと羞恥と怒りを取り混ぜた複雑な感情により、俺は無意識に闇魔力を発動した。
自身の内側から溢れ出した黒い炎が、両腕を拘束するダミアンとミカエラを弾き飛ばす。
二人は咄嗟に受け身を取りながらも、左右の壁に叩き付けられたのである。
「…うるさい、二人共。」
ゆらりと薄い黒炎を纏った俺に、ダミアンとミカエラが目を見開く。
「も、申し訳ございません、魔王様。」
「ごめんなさい、蒼真ぁ。」
深く頭を下げるダミアンと、首を竦めるミカエラ。
勿論二人共強靭な肉体を持つ魔族なので、これくらいでは掠り傷一つしないだろう。
うん、喧嘩両成敗ってやつだな。
あれ?違ったか?
「あの…魔王様?」
そんなやり取りをしていた俺達に、おずおずと声を掛ける強者。
いや、この場合はリミドラしか動けなかったか。
衛兵は目を見開いたまま、硬直しているし。
「どうした?リミドラ。」
普段通りの対応で、俺はリミドラに応じる。
勿論、纏った黒炎は消失させた─怖がられるからな。
「あの…、ありがとう…ございます。」
胸の辺りで両手をモジモジ合わせながら、酷く小さな声で告げられた。
…礼?……………あぁ、さっきの可愛いって言った事に対して…か?
あまりの時間差に、俺自身も何の事だか分からなかったぞ。
「いや、マジ可愛いから。…馬子にも衣装?あ、違うか。これはダメな方だった。ん~…、悪い。俺、そんなにボキャブラリーが豊富じゃなかった。」
色々考えたあげく、俺は片手を後頭部に当ててギブアップする。
必死に誉めようとしたのだが、俺自身、的確に女子を口説けるスキルは持ち合わせていない。
「でも、可愛いのは本当。」
そのまま歩み寄り、羞恥で俯くリミドラの顔を覗き込んだ。
これで13歳?ってか、俺と婚約するんだよな…。
リミドラの頭の位置は、俺の肘辺り。
…大人と子供?




