6.魔王は売約済みです─4
それからの俺は、高位魔族の半ば強引な接触を上手く避けつつ、いよいよ婚約発表当日を迎えていた。
マジ、長かった…。
「…本当に、俺は何も喋らなくて良いんだな?」
最終確認とばかりに、強めの口調でダミアンに問う。
今の俺は光沢感のある黒い服を身に纏い、同じく黒いマントを装備中。
全身が黒いのは魔王のみに許された色らしいが、どうしても中学の学ランかよ、と思ってしまう。
それほど、詰襟の窮屈さに嫌気がさしていた。
「はい、魔王様。今回は我々次期宰相候補5名と、筆頭魔法士様とで進行を執り行わさせていただきます。民への発表が目的ですので、魔王様はリミドラ嬢と共にいらっしゃるだけで問題ございません。」
つらつらと淀みなく告げるダミアン。
とうとう…いや、結婚式をする訳じゃないから、俺はまだ独身だな。
誰に告げるでもなく言い訳じみた考えが浮かぶのは、男だからか。それとも、好きでもない相手を宛がわれた腹いせか。
「婚約って、特別重いものじゃないのか?」
ただの約束なのではと、俺は微かな希望を見出だす。
「いいえ。余程の事がない限り、婚約とその後の結婚は同一の相手と行います。一方的な婚約解消は処罰の対象となる場合も多く、手続きが必要となります。」
たがそんな俺の問いに、ダミアンは当然のように答えた。
ダメか…。
だいたい、約束を簡単に反故にする事自体、論外ではあるんだがな。
「分かった。俺も、いい加減覚悟を決めないとな。」
大きく息を吐き、心の中を整理する。
OKだ、なるようになるさ。
「式典の準備は整ってるのか?」
「はい。現在はリミドラ嬢の準備待ちです。あちらにはアルフォシーナとミカエラがおります故、ご安心くださいませ。」
恭しく頭を下げるダミアン。
いや、別に心配なんかしてないっての。
コン、コン。
その時、静かに扉が叩かれた。
「何だ。」
「リミドラ様の準備が整いました。」
「蒼真、いるぅ?」
衛兵らしき声と共に、ミカエラが勢い良く扉を開ける。
おいおい、勝手に開けるなよ。
「ミカエラ。魔王様に対して、何と言う言葉遣いですか。」
俺の前に立っていたダミアンが、すぐに鋭く告げた。
「そんなに怖い顔をしないでよぉ、ダミアンちゃん。」
それでもミカエラは、フワリと笑みを浮かべながら言い返す。
真顔の銀髪ストレートと、笑顔の金髪ウエーブ。
相反する相性なのか、表情を変えずに視線を合わせたまま、双方とも動かなかった。
はぁ…。暖簾に腕押し、だな。
ってか、気付いてやれよ。後ろで衛兵が、この場をどう切り抜けようか困惑中だっての。