6.魔王は売約済みです─3
「とりあえずミカエラ。今は宰相執務室に行く途中で、俺は忙しい。いずれちゃんとミカエラにも仕事を用意してやるから、それまでは好きに過ごすと良い。」
今はそれだけ告げると、ミカエラをその場に残して背を向ける。
「では、ミカエラ。失礼します。」
ダミアンも軽く目礼する事でミカエラを振り切り、俺の後方についてきた。
その位置は、相変わらずの斜め左後ろである。
しかし、ミカエラの役割には驚いた。
何処の姫だっての。
宰相執務室に着くと、すぐさまダミアンが扉を開ける。
勿論、先に中に入り、安全確認を怠らない。
「どうぞ、魔王様。」
「あぁ。」
フランツの件以降、一番の頼れる部下、といったところか。
俺は自分の執務室がない訳ではないが、今は宰相執務室の一角を間借りしている。
が、 回ってくる書類等は知れている。
「また懲りもせず…。」
俺は机上に積み上げられた羊皮紙の束に、大きく溜め息をついた。
そこには、崩れそうな程の姿絵があったのである。
「お会いする事も避けられていますからね。高位魔族達も、他に手段を見付けられないのでしょう。」
苦笑しつつも、ダミアンが答える。
俺だって分かってはいるが、納得が出来ないんだ。
「どいつもこいつも、自分のところの大切な娘だろ?それを何で好き好んで魔王の嫁に出したがるんだ?」
俺は羊皮紙の束へ、バンバンと手の甲で不満をぶつける。
魔族の王である存在に嫁に出すって事は、政治とか権力とかが関わってくるのだ。
穏やかに過ごせない事など、分かりきっているじゃないか。
「娘の将来などを考えている者は、王妃候補に出さないでしょうね。金と権力が目的だからこそ、側室でもという話も上がっているのです。王子を孕んだもの勝ちですからね。…だからこそ、我々は警戒をしていたのです。無駄になりましたが。」
後半の言葉に棘を感じたものの、事実上、俺の単独行動が原因なのだ。
何も言えなくなった俺に、ダミアンは綺麗な笑顔を向ける。
「大丈夫です、魔王様。まだ幾らでも方法はあります。とりあえず、最早避けられないリドミラ嬢との婚約を発表します。ですが、魔王様が次期宰相を選出すれば、少し流れが変わります。」
ハッキリと断言するダミアン。
何故か黒く見える笑みが、怖い気がする。
何を企んでいるかは知らないが、俺に不利になるような事じゃないよな?
ってか、本当に早く次期宰相候補者達を知らなきゃならないのに。
どうしてこうも、邪魔ばっか入るんだ?
俺の召喚魔王人生は、波瀾万丈なのかっ。