5.魔王に噛み付いてはダメです─10
「ちょっと待て。いったい何だ。」
再起動を果たした俺は、とにかく相手の言い分を聞いてみる事にする。
すると、先程少女を刃に掛けようとした獣人が、深く頭を下げたまま答えた。
「御身を危険に曝したと疑いを掛けられる、我等獣人族でございます。そしてその者は、首謀者と思われる犬種の長。知っての通り、一族の存亡を掛け、この場で処刑されるところでした。」
まぁ…それを聞いて、俺が止めに入った訳だが。
「そこへ、他ならぬ魔王様直々に、長をお助けになられた。」
ん?話の流れが…。
「つまりは、魔王様が彼女を助けた事により、犬種の…延いては獣人族の罪が許されたと。そう、あなた方は仰りたいのですね。」
俺が首を傾げそうになった時、ダミアンが口を挟む。
あ、そう言う事?
…なるほど、そうなる訳か。
代表で、命を以て罪を償おうとした。俺が助けた。つまりは、許されたと。
グハッ…、何だかちょっとダメージを受けた。
いや、彼女が殺されるのは納得出来ないから、それは良かったんだけどもっ。
「魔王様。いかがなされますか?」
真顔で問い掛けてくるダミアンに、少しだけ怒りを覚えた。
いや、これは八つ当たりか。
ってかどうするもこうするも、ここで許さんとは言えないだろ。
「分かった。今回の事に関して、獣人族へのこれ以上の断罪はしない。皆は、これまで通り国に仕えてくれ。」
俺は周囲を取り囲む獣人族達に、ハッキリと告げた。
だがもうこう言うしかない雰囲気で、溜め息をつかなかっただけ誉めてくれよって思いたい。
「では、僕との婚姻も認めて下さるのですね?」
甲高い声が鼓膜を揺らす。
すぐ耳元で問われ、僅かながら頬がひきつったのは許されるだろうか。
またしても、拒否権のない選択肢が現れた。
「い…や、俺は…まだ、17だし…。」
「おぉ、丁度良いではありませんか。あ、申し遅れました。僕はリドミラ・アブソーヴァと申します。末永く、お傍に置いてくださいませ。」
腕に抱いた少女─リドミラが、ペコリと頭を下げる。
何か…確定したのか、これ…。
「魔王様。おめでとうございます。…本当はわたくしを一番お傍に置いて頂きたいのですが、致し方ございません。」
後半の言葉が聞き取れなかったが、ダミアンが祝辞を述べた事により、再び歓声が上がった。
マジか…。
俺はリドミラをその場に下ろし、ここが処刑台だと忘れてしゃがみ込む。
「魔王様?」
小首を傾げ、リドミラが顔を覗き込んできた。
俺は彼女にチラリと視線を向け、そして項垂れる。
まさか17にして、婚約者を宛がわれるとは…。
しかも、犬耳…。ファンタジーだ。