5.魔王に噛み付いてはダメです─9
「獣人族には比較的多いのですが、首筋を情を以て甘噛する事で、相手に好意と執着を示します。あ…勿論、攻撃的な噛み付きは論外ですが。」
ダミアンのその説明を聞き、慌てて少女を見る。が、遅かった。
しっかりと首筋に抱き付かれたのである。
下ろそうとしたのが、バレたのか?
「え…っと、ど、どうすれば良いんだっ?」
まさか噛み付く事が告白だとは、思っていなかった俺。
当たり前だが、断り方も知らない訳で。
視線で助けを求めると、ダミアンがより苦い顔をした。
「求婚の直後、視線を合わせない事で拒絶を表すのですが…魔王様の場合、既に見つめ合っていましたからね。この、獣人族が一堂に会している場所で、今更なかったは認められないでしょう。」
淡々と答えて答えてくれるダミアンだが、この件を認めている訳ではなさそうである。
「け、けどこんな小さい子をだなっ?」
「小さく、ない…です。僕、13歳ですもん。」
抱き上げたままの少女が、いきなりのカミングアウトだ。
え?このナリで?
「…今、疑いましたね?ひ、酷いですっ。魔王様とも在ろう御方が、外見で魔族を判断するなんて…っ。」
胡乱な視線を向けた事がいけなかったのか、両手で顔を覆い、肩を揺らし始めた。
う…っ。お、俺が泣かせたのか?
「わ、悪かったよ。小さいって言って、すまなかった。ってか、マジで13歳?ここの結婚年齢って、幾つ?」
仕方なく少女に謝罪しつつ、またしても助けをダミアンに求める。
ってか、ここには俺の味方が他にいない気がするんだな。
「獣人族は繁殖期も関係してきますので、齢10を過ぎれば婚約者を。15で子連れは当たり前かと。」
淡々と答えるダミアン。
違った。
俺の味方は、誰一人としていなかったようである。
あぁ、そうかよ。お前は物知り過ぎるよっ。
ってか、どうしてこうなった?
俺は、無実の罪で処刑されようとしている少女を、助ける為にここへ来たんだ。
断じて、こんな訳の分からない理由で婚約者を宛がわれる為に、危険を冒してまで刀の下に飛び込んだ訳じゃないっ。
「俺は…っ。」
自らの不満をぶちまけるべく、俺は口を開いた。
が、その先に言葉を続ける事が出来なくなる。
「ありがとうございます、魔王様。」
何故か周囲にいた獣人の民衆が、揃って大地に平伏したのだ。
そして、口々に感謝の言葉を述べている。
はい?
意味不明の俺は、相変わらず少女を抱き上げたまま、民衆に向かってフリーズした。
ってか、地味に重いよな。
30キロはないと思うが、いったいどんな罰ゲームだよ。