5.魔王に噛み付いてはダメです─6
「うっさいなぁ、ダミアンは。ただ少し、味見をさせてもらおうかと思っただけじゃんよぉ。」
拗ねたように唇を尖らすフランツ。
いや…そんな事をしたって、全く可愛いげがないぞ。
それに思っただけじゃなくて、行動に移そうとしていたよな?
「不敬な…。それ以上の言動は、いくら次期宰相候補としても許せません。」
ダミアンが一歩前に出た。
「はいは~い、ごめんごめん。んじゃ、面倒臭いから俺は行くよ~。」
「待ちなさい、まだ話が…。」
フランツは早々に両手をあげ、ダミアンの続く言葉を無視して、そのまま退室する。
「…申し訳ございません、魔王様。フランツには、あの様な態度を二度ととらぬよう…。」
「良いよ、今更だし。フランツが俺を嫌っているのも、分かってるからさ。それでも、次期宰相候補者なんだろ?」
深く頭を下げるダミアンを制し、俺は倒れているアルドを診る。
それに、噛み付かれるのは勘弁だが、フランツの本質をまだ知らないからな。
拒絶するのは簡単だが、受け入れる努力を怠ってはならない─とは思う。
「ですが、お気を付けくださいませ。もう二度と、魔王様を傷付ける者を近付けないつもりであります。ですが誠に遺憾ながら、わたくしの力にも限りがあります。」
真顔で告げるダミアン。
こういう真面目なところは、本当に出来る男って感じがするんだけどな。
「それより、俺が寝てた間の状況は?」
これ以上この話が続く事を避ける為、俺は新たな問い掛けをする。
まだ実際、国政に関わりを持っている訳ではないが、腐っても魔王だ。
やる事が分かってやっている訳じゃないが、クラス委員長のデカい版だろ?
「はい。先程ご報告した通り、現在国内で、魔王様を襲った獣人の一族郎党を調査しております。…その影響からか、獣人族に対する風当たりが少々強くなっているくらいで…。」
「おい、ちょっと待て。」
話を続けようとしたダミアンを遮る。
くらい…とか、簡単に言ってるんじゃねぇっての。
「獣人族は、魔族の3割を占めるだろ?」
魔王知識から、少々では済まないと感じた。
「はい。特に犬種への迫害が出始めておりますが、次なる愚行を避ける為の処置ですので、致し方ありません。」
ダミアンはそれに対して何の危機感も持っていないようで、淡々と答える。
本当に…コイツは真面目なんだが、融通が利かないところもあるよな。
仮に犬種が何らかの情報を持っていても、全員が悪い訳じゃないだろ。
「ダミアン。お前、俺の言った事を聞いてたか?」
「はい。今はまだ殲滅してはおりませんし、わたくしとしても、この程度で許す訳には参りません。」
俺の問いに答えるものの、ダミアンは既に黒いオーラを出していた。
ヤバいって、ダミアン。
顔立ちが整ってるだけあって、怖いんだけど。