1.魔王になりました─1
「…様。…王様っ。」
必死な呼び掛けが聞こえてくる。
ってか、誰だよ。うるさいな。
「魔王様っ!」
「ぅお…っ?!」
ゴチッ。
耳元で叫ばれ、思わず飛び起きてしまった。と思ったら、目の前に火花が散る。
…っててて~、誰だよ!
額を押さえつつ、とりあえず手近な人物を睨み付けた。
あ…、夢じゃなかったか。
少しだけガッカリしたものの、目の前にとりあえず見知った人物がいて、ホンの少しだけホッとする。
…悪いか、ホンの少しで。
「申し訳ございません、魔王様。わたくしが至らぬばかりに…。」
平謝りするダミアンは、もう、これ以上ない程の土下座だった。
ってか、あるんだ、土下座。凄く、額を地面に擦り付けてるし。
だいたい、俺は今ぶつけた額が痛いのに、お前は平気なのか。
「良いよ、もう。俺もとりあえず無事みたいだし。」
横たわっていた状態から身体を起こすと、どうやら俺は地面に仰向けに寝ていたらしい。
で、周囲を見渡すと…。何だ、これ。
何が起こった?って程、周囲のありとあらゆる物が大地に変わっていた。
多分、ここは森だったのだと思うが…。
周囲10メートルくらい?教室の端から端くらいまでの範囲で、丸ハゲである。
「何、これ。…ダミアンがやったの?」
指差しながら問いつつ、半身を起こしたままで手元を触ってみた。
地面は有り得ない程フワフワになっていて、デッカイ低反発ベッドにでも寝ているような感触。
何か、すげぇ気持ち良い。
「いいえ。これは、魔王様のお力にございます。」
土下座しながら答えてくれるダミアン。
だが、ちょっと待て。
マオウ様?…確かコイツ、最初から俺を見て呼んでたよな。つまりは何だ?俺の事?
頭の中は疑問符が大繁殖中だが、少しずつ噛み砕いて理解していく。
「俺?」
「その通りでございます、魔王様。」
で、考えるのをやめて聞いてみた訳だ。
即行、肯定されたが。
「俺、そんなんじゃねぇし。ただの高校生だし。」
訳が分からないが、とりあえず否定してみる。
「いいえ、魔王様。魔王様はこの世界に喚ばれた事で、魔王様たるお力を有する存在となられたのです。」
「…喚ばれた?何だよ、それ。どっかの異世界召喚系?ってか、もう土下座は良いよ。喋り難いし。」
未だ、地面に額を擦り付けていたダミアンだった。クワガタ角の両方に土が乗ってしまっている。
止めるまでそれって、どっかのお奉行様扱いかよ。
「はっ、ありがたき幸せに存じます。」
そう言いながら、また深く頭を下げる。
おいおい。それじゃあ、さっきと変んねぇじゃないかよ。