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召喚魔王の俺  作者: まひる
第1章
48/248

5.魔王に噛み付いてはダメです─4

「何…やってるんだ?」

 俺は目の前に立つ人物─正確には人ではないが─に声を掛ける。

 背を向けていたソイツが振り向いた時、俺の背筋にゾクッとした寒気が走った。


 動きと共に、長いウエーブのついた赤い髪が揺れる。

 同時に、黒い(きり)が立ち(のぼ)った。

「何やってるんだと、聞いている。」

 再度、威圧を込めて問う。


 すると、(ようや)くフランツが口を開いた。

「食事?」

 何故か疑問符がついた答えだったが、見る限りで把握出来る状態である。

 ただしその手にしているのは、通常俺がイメージする食事ではなく、茶色っぽい熊耳のついた獣人─アルドだっただけ。


 視線をフランツからアルドに移すが、明らかにグッタリとした様子の彼。

 ボンヤリと()らぬ方を見つめたままのアルドの首元が、色濃く濡れて光っている。


「何故ここにいるんだ、フランツ。何故、アルドを?」

「アルドぉ?…あぁ、この獣人の事かぁ。何でって、獣人だしぃ?」

 感情を押し込めて問い掛けた俺に、フランツは事も無げに答えた。

 そして挑発の意味なのか、(みずか)らの唇を舐める。

 獣人…だから?

 そう言えば今日の衛兵達は、獣人が全くいなかったな。これが、違和感の正体か。

 でも、だからって…っ。


 (わず)かに疑問に思った事に対し、俺の中の魔王知識が答える。

 獣人族は魔族の中でも下位の存在であり、様々な欲求を満たす為に存在を許されていた。

 勿論その中に、食欲も含まれる。


「吸血行為は、魔族相手─魔力自体でも良いって事か…。」

 平生(へいぜい)(よそお)ってはいるつもりだが、背筋を走る悪寒は強くなるばかり。

 吸血行為を目にした事で、襲われた記憶がまざまざと(よみがえ)る。


「そりゃ、人族の血液が一番美味しいけどさぁ。…あ、魔王様ってばもしかして、怖がってるぅ?」

 からかいを含んだ声音(こわね)で、フランツが笑みを浮かべた。

 俺の感情と魔力に連結(リンク)した彼等に、見せ掛けばかりの強がりは通用しない。


「うるさい。アルドを離してもらおう。」

 波打つ感情を必死に(おさ)え込み、真っ直ぐフランツを睨む。

「え~っ、俺の(めし)なんだけどぉ。あ、もしかしてぇ…、代わりに魔王様を喰わせてくれる?」

 何でもない事のように、フランツは笑顔を浮かべた。


 笑顔なのに、その瞳はギラリと輝く。

 途端に心臓辺りが、ヤバいくらいに跳ねた。


「ねぇ。噛み付かせてよぉ。」

 ドサッと鈍い音がする。フランツがアルドから手を離したらしい。

 ってか、ソッと()ろせよ。


 静かに歩み寄ってくるフランツ。

 俺は執務室入り口に立ち尽くしたまま、()()()かった。

 鋭い視線をフランツに向けているものの、身体は思うように動かない。


 どうしちまったんだ、俺。


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