5.魔王に噛み付いてはダメです─3
「ダミア~ン、帰ってこいっ。もう分かった。」
「…はっ?!も、申し訳ございませんっ。」
俺はとりあえず、自分世界に入っているダミアンを呼び戻す。
我に返って慌てるダミアンは、俺の中では既にデフォルトで、もうこれくらいでは動じなくなった。
「ったく…、ダミアンは絶好調の通常運転だな。」
「はい…、申し訳ございません。」
淡々と告げる方が、ダミアンには効果があるようだ。
項垂れて、見た目は反省しているように見えなくもない。
あくまでも、見た目だけだがな。
「とりあえず…怪我とかしてないようだし、もう寝ている必要もないだろ。」
俺は起き上がって見えている半身を見回し、擦り傷一つない事を確認する。
「今は消えて綺麗なお身体に治っておりますが。闇魔力で包み込む事で、回復に集中しなければならなかったようだと、医師の見解です。」
「ふぅん…。」
ダミアンが説明をしているが、俺は話し半分に聞いていた。
そしていつまでも横になっているのも疲れる為、俺はさっさとベッドから降りる事にする。
「あ、お待ち下さ…っ!」
ダミアンが慌てたような声をあげ、そして硬直した。
ん?やけにスースーする…なっ?!
いや、俺も硬直する。
さすがに、真っ裸とは思わないだろ。
そして再起動。
バサッ!
思わずベッドの上掛けをダミアンに被せたが、俺はその後の事を気にしていられなかった。
とにもかくにも、着る物を探さなくては。
◆ ◆ ◆
「…その、悪かったな…。」
まさかの寝起き早々の失態。
男の裸なんて見せられても、気分悪いよな。すまん。
着替え終えた俺は、そう思ってダミアンに謝罪したんだが─やはりそこは、変態度も通常運転中だった。
「あぁぁ…ぁぁ…、魔王…様…っ。」
俺の被せた布団の奥から、絞るようなダミアンの声。
ヤバい、これは確実に見てはならないものだ。
このまま俺の寝室に放置するのも嫌だったが、今は触らぬ方が良しと判断。
ソッと寝室を脱出する俺である。
ってか、自分の部屋を追い出されるような感じで、イマイチ気分が浮上しないがな。
◆ ◆ ◆
俺はそのまま、宰相執務室の方へ足を向けた。
ダミアンがいない筈だから、今は誰もいないのかな。
魔王城全ての知識があるものの、実際に俺の目で確認した場所は驚く程に少ない。
つまりは、行こうとする場所に当てがないのだ。
だから結局、行った事のある場所になる訳で。
廊下の各所にはいつものように衛兵が立っているが、俺の歩みを誰も妨げたりはしない。
けど、何だか違和感があった。
それが何かは分からないが、俺は当初の目的地に設定した、宰相執務室に到着する。
そしてその重そうな扉を開けた時、違和感の正体が分かった。