5.魔王に噛み付いてはダメです─2
「魔王様は…御自身の闇魔力で一命を取り止めたようなものですが、大変危険な状態でした。」
ダミアンが苦々しく口を開く。
他の次期宰相候補は何も言わなかったが、俺の状態は魔族的にも、かなり重体だったらしい。
「わたくしは犯人の顔を見てはおりません。こちらに駆け付けた時には、既に犯人は魔王様によって拘束されている状態でした。その節は遅くなりまして、誠に申し訳ございません。」
ベッド脇に直立していたダミアンは、深々と頭を下げる。
いや、別に今はそれを責めてはいないけどさ。
「俺が欲しいのは謝罪じゃなくて、事実確認なんだけど。」
淡々と告げると、ダミアンが息を呑む。
あれ?言い方を間違えたか?
「申し訳ございません。わたくしが知っている事を報告させて頂きます。」
そしてダミアンの報告を聞く。
どうやら彼が駆け付けた時、俺は闇魔力を放出していて、首謀者と思われる奴を捕獲していたらしい。
しかも完全に闇魔力で取り囲んでいる状態で、毛一本すら見えなかったようだ。
そして「喰って良いか」と問い掛けた後、吸収してしまった…という事らしい。
「魔族はその肉体自体を魔力で構成している為、核以外の殆どが残らないのです。その核は既に魔王様の物。どうぞ御自由にお使いください。…本当はそれすら憎いのですが。」
最後にボソッと呟かれた言葉は聞こえなかったが、とりあえず核は返さなくて─いや、持ち主はもういないか─良いらしい。
「あ、そ。」
「そ、ではございません。他人事のように。満身創痍の魔王様を目にした時、わたくしは本当に核が冷えました。」
さらりと返した俺に、ダミアンは急に熱くなる。
あ、核が冷えるって言うんだ。─と、どうでも良い事を考えてしまったが。
「けど、それは俺に言われてもな。」
「そうですが…っ。魔王様は犯人の吸収後、闇魔力で全身を包まれました。本日の明け方に解除されるまで、誰も近付けさせはしませんでしたし。」
今度は拗ねたように呟く。
「お倒れになられた時は、わたくしにお身体を預けて下さったのに…。こちらにお運びした途端、弾き飛ばされたのです。」
ダミアンは、そう涙ながらに訴える。
いや、今の俺に言われても…ってか、今でもそうする気持ちは分かるな。
要は、自分の身の安全を取ったんだろうし?
「近付けば、闇魔力で構成された物が…細い鞭のように撓り、わたくしを打つのです。」
言いながら、ダミアンがホゥッと吐息を漏らす。
ん?何かおかしい─って、嬉しかったのか?!
その言葉に違和感を感じた俺は、外していた視線をダミアンに向ける。
そして恍惚と宙を見上げるダミアンは、例の如く変態だった。
ったく…コイツ、仕事中だけは真面目で遣り手なんだがな。