5.魔王に噛み付いてはダメです─1
「ダミアン。お前、あの場に来てただろ?」
「はい、魔王様。」
ダミアンは、俺の問いにすぐ返答をする。
ってか、5日も経ってるんじゃ、もう遅いかもしれないけどな。
「黒っぽい獣人、だった。」
基本的に目隠し─と同等─をされていた俺は、あの時の事に対して、僅かな情報しか得られていない。
あの時は、ボンヤリとした視覚しか持っていなかったからだ。
「…はい。少量ですが遺留品を集めました。その中に、紺色の犬種の毛が見つかっております。一口に犬種といっても様々ですが…。」
僅かに表情を曇らせた後、ダミアンは淡々と告げる。
犬種…確かに、口は突き出ていたような気がする。
「現在は、一族郎党を調査中です。」
「…殲滅とかはするなよ?」
ダミアンの報告に、俺は鋭い視線を向けた。
別に、今回の仕打ちを笑って許せる程、俺は心が広いわ訳じゃない。
ただ、今後もあるかもしれない事件の度に、犯人の同族を殺していては何も変わらないのだ。
「…善処致します。」
それでもダミアンは、首を縦に振る事はしない。
ってか、殺る気かよ?
「俺の、魔王としての命令だからな。だいたい、イチイチ殲滅してたら、魔族が絶滅するだろうが。」
それほど、魔族の人族に対する意識がある。
「腑に落ちないって顔してるな。…あ、サンキュ。」
俺は威圧する為にベッドから起き上がりつつも、然り気無く背中の後ろに大きなクッションを挟んでくれたダミアンに礼を告げた。
変態だけど、気が利くんだよな。
ってか、もう全く身体は平気なんだけど。
「勿体なきお言葉…。わたくしは、全てを魔王様に捧げております。ですがいくら魔王様のご命令と言えども、貴方様の存在を脅かす者など…っ。」
「俺が簡単に殺られると?」
不穏な空気を纏い始めたダミアン。
その言葉を遮るように、俺は問い掛ける。
まぁ、実際に危なかった事は事実だがな。
でも俺、転んでもタダでは起き上がらないタイプらしい。
「獲た物はあるんだ。アイツから、核を3つ貰った…いや、奪ったのか?」
告げながらも、小首を傾げる俺。
魔族に核がある事は魔王知識で知ってる─けど、俺自身はどうなんだ?と、疑問も浮かんだ訳で。
勿論、人間にはない。
「核、ですか。あの時…。」
言い淀むダミアンを見て、何かを知っている事を察する。
「原理は分からんが、事実だけは分かる。で、ダミアンは何を知ってるんだ?」
「覚えて…いらっしゃらないのですか?」
問い掛けた俺に対し、ダミアンが僅かに目を見開いた。
俺、覚えているべきだった?でも、誰も俺に聞かなかったじゃん。
って…俺、何かした?