4.魔王にサカらないで下さい─7
何の抵抗も出来ないまま、何者かの肩で荷物のように担ぎ上げられ、俺は無様に運ばれていた。
ってかここ、魔王城だったよな?何で魔王の俺が、こんな目にあってんの?
状況が全く分からず、尚且つ、今の俺はただの屍の風体─指先一つ、まともに動かせやしない。
…いったい、俺に何を飲ませやがったんだ。ってか、腹に当たる肩が痛いっての。
痺れてるけど、痛みは分かるんだよっ。
◆ ◆ ◆
どのくらい移動したのか、突然身体に息を呑む程の衝撃を受ける。
くそっ、落としやがったな?!
声も出せない為、呻く事すら出来ない。歯を食い縛って短く呼気を漏らし、痛覚を逃がすしかなかった。
身体の痺れは特に手足に集中しており、末端部分程に症状が酷い─と自己解析をしていると、何者かに顎を掴み上げられた。
そして目隠しを取られた瞬間、いきなり強力な光を当てられる。
反射的に目を閉じても、さすがに光源を防げないらしい。完全に目を眩まされた。
その後目を開いても、真っ白に焼けた視界には何も映らない。そしてその不意をついて、今度は薬のような物─明らかに良い目薬じゃない─を瞳に落とされた。
もう、踏んだり蹴ったりの俺。
痛みはなかったものの、それは瞳の上に薄い膜を作るらしく、今度こそ完全に視界を奪われたのである。
「…ククク…こうなっては、何も出来まい。」
漸く、犯行に荷担したと思われる人物が口を開いた。
声からするに、若い男。
低めだが、張りのある声である。
「新しい魔王が人族から選抜されるなど、あって良い筈がない…っ。」
怒りと憎しみが溢れんばかりの言葉と、掴まれた顎に物理的な力が込められる。
いや、俺が決めた訳じゃないんだけど。それに、コイツが主犯?
「この黒い髪は美しいが…、身体つきは貧弱。そして簡単に捕縛される程に、弱い。」
ビリビリッ。
言葉と共に、力任せに服を引き裂かれた。
「コレが魔王を名乗る等、あって良い筈がないっ。」
押し殺すかのような声。
ギリギリと胸部を走る熱に、爪で切り裂かれているのだと、他人事のように思う。
とりあえず、コイツは魔族だな。しかも、人族出身である俺を快く思わない者。
…まぁ、いるとは思ってた。こんな暴挙に出るとは、さすがに予想してなかったけど。
「人族と同じように、体液を流すこの身体…。果たして、何処まで耐えられるかな?」
それまでの憤怒状態から、何故か快楽を見出したようだ。
勿論、俺には悪い予感しかしない。
体液を流す…ってとこ、個人的に気になったけど。
今は自分の血の色より、コイツにオモチャにされて壊されそうで嫌だった。
ってか、おいっ!俺の─魔王の危機に、何で誰も駆け付けないんだっ。…いや、待てよ。
俺…今、激しくみっともないんじゃね?