4.魔王にサカらないで下さい─6
「ややややめてください、魔王様…。ボクはその…、まま魔将軍の方々とは…ち違いますし…。ははは繁殖期でないと…、そそそその…。」
俺が顔を覗き込んだ事で、いっそう顔を赤くするアハボだった。
─が、言っている内容がおかしい。
「何言ってるんだ?」
意味が分からず、小首を傾げる。
「え?ああああの…、まま魔王様の旺盛な魔力発散の為に、かかかか身体を…。」
「ちょっと待て。」
アハボの言葉を遮り、俺は魔王知識で検索した。
そして判明した、新たな事実。
どうやら魔王は、その膨大な魔力で自我が崩壊しないように、様々な方法で力を発散する必要があるらしい。
その一つが次期宰相候補達を…いや、俺はしねぇぞ?
「オーケー、言いたい事は分かった。けどそれ以上言うな。俺は力を誇示するのは嫌いだ。他者へ強要するのもな。だから、そこら辺は気にするな。とりあえず、本を見させてもらうからな。」
「はははいっ。どどうぞ、ごゆっくり。」
片手を上げつつ背を向けた俺に、慌てて頭を下げるアハボ。
実際には居たたまれなくなっただけだが、俺は平生を装って、書庫の棚に向かって歩いていく。
とにかく、他の魔族が魔王を恐れる原因の一つが、これじゃないよな?ってか、そうであってくれるなよっ?
◆ ◆ ◆
暫く本を片っ端から読み漁っていると、いつの間にか先程までの鬱々とした感情が消えている事に気付いた。
俺はこう見えて、読書が好きな方だったからな。
知識欲というのか、別の何かに集中出来るだけでも精神的に良いのだろう。
それにしても、ここの蔵書数は半端ない。
植物紙はさすがにないものの、動物の皮等を鞣して加工した羊皮紙に、独特のインクで記された文字達。時が経つ程に茶色く変色していくそれらは、様々な形で書かれていた。
まぁ…魔王知識で、どの文字も読めるんだけどな。
ん?これは魔法書か…。へぇ~、色々な効果があるんだな。
その時の俺は読書に集中し過ぎて、周囲が全く読めていなかった。
「っ?!」
突然後ろから羽交い締めにされ、別の手によって素早く目隠しをされる。同時に、恐らくもう一対存在した手が、無理矢理開かせた俺の口に何かを押し込んだ。
ゴクッ。
飲んじゃったよ、その何かをっ。
この一瞬間の連携プレーは、まさに見事、としか言い様がない。
「…!!…?!…!」
次の瞬間、我に返り反撃に出ようとした俺は、驚愕に口を開くしか─目隠しされてるから─出来なかったのだ。
ヤバいよ、マジで。
声が出ないプラス、身体が痺れている。
これじゃ俺、ただの人間じゃん?