プロローグ─4
「とにかく、何処かに下ろせ。」
俺は必死に感情を抑え込む。
下半身が湿っている奴にこれ以上、屈辱の姫抱きをされ続ける訳にもいかない。
「申し訳ございません。ただ今、魔王城以外に安全な場所は皆無にございます。」
再び変態─ダミアンは、恭しく俺に頭を下げる。
ってか、これに関しては本当に頑固だな。
もしかして、本当に危ないのか?それとも○○詐欺のように、安心させて根刮ぎふんだくるとか?
「まぁ、良い。そこでも良いから、さっさと連れていけ。」
「はっ、畏まりました。」
俺の投げ遣りな言葉に何も思わないのか、再度一礼をすると、ダミアンは真っ直ぐ何処かを目指して翼を動かした。
何が狙いかは分からないが、今の俺には何もない。仮にこの命が目当てでも、どうせ一度死を覚悟…いや、二度死を覚悟した俺だ。
なるようになれってんだ!
お前も開き直ったのかって?いや、違う。これは、戦略的撤退だ。
…ってか、これ以上この変態に、姫抱きされてたくないんだよぉ!
これは俺の、心の叫びなんだっ。
「どうかなされましたか?」
俺を姫抱きしたまま、平然と飛行する変態…ダミアン。
コイツの特殊な癖を知らなければ、この見た目から、女から見ればかなりの良物件なんだろう。
うん、あくまでも知らなければ、だ。
「いや…。そう言えば、ダミアンのその羽根、てん…鳥みたいに綺麗だな。」
「はぅ…っ。」
心の内を誤魔化す為、ふと気になった事を告げたのだが。…いや、俺が悪いのか?
これでも、天使と言いそうになるのを、とりあえずやめてみたんだぞ?クワガタ角が一対あって、天使もクソもないからな。
けど、ダミアンは空中を飛びながら、意識が何処かにトンでいってしまった。
「お、おいっ。ダミアン?!」
焦って声を掛けるも、なかなか戻ってこない。
俺は姫抱き。ダミアンは身体をほぼ水平に倒した状態で、かなりの速度で飛行中だ。
勿論、高度もかなりある。
またかよ…。って、簡単に諦めると思ったら大間違いだっての!
もう俺には怖いもんはないんだっ。いや、やっぱり死ぬのとか怖いけど。い、痛いのとかも嫌だし…。
だ、だが、しかしっ!
現状打破の行動だけは、しようと決めた。今、決めたっ。
俺は、思い切りダミアンの両耳を横に引っ張った。
もう、これ以上ない程に、だ。
「フニャッ!」
効果覿面。変な声が聞こえたが、これは無視。
正気を失っていたダミアンは、即座に我に返った。己の両手で、しっかりと痛覚を覚えた両耳を押さえたのである。
そうだな。そうくるよな。
ダミアンに通常ではない痛みを与える。我に返り、その部分を押さえる。抱き上げられている俺は、勿論落ちる。
はい、さようなら、と。