4.魔王にサカらないで下さい─5
「俺、怖い?」
疑問に思っていても解決しないので、ストレートに山羊顔に聞いてみる。
「ととととととんでもないですっ。たたたただその…魔王様のお力故、その…いい威圧感がありまして…。」
左右に視線を迷わせながらも、山羊顔は必死に答えてくれた。
威圧感…ね。つまりは、魔王独自の気配みたいなもんか?
「あ~…、悪い。俺、まだそのコントロールを知らないや。ってか、ダミアンとか普通だったしな。気付かんかった。」
あまりの挙動不審ぶりに、こちらが申し訳なくなってくる。
それに、俺と対した魔族はまだ、ごく少数なのが実情だ。
「ももももも申し訳ございませんっ。まままま魔王様を責めている訳ではないのですが、そそそその…わわわ我々獣人型は気配に敏感でしてっ。」
懐からハンカチを出し、アセアセと額に当てる山羊─えっと名前は…。
知ろうとして知識を検索するが、さすがに魔王とて、全魔族の名前を記憶している訳ではなさそうである。
「そっか。なら、尚更悪かったな。えっと…?」
「は…っ、申し訳ございませんっ。オレ…いや、ボクはアハボ・ハルヴァと申します。」
ビシッと両腕を脇につけ、自称を直して名乗る山羊顔─アハボ。
一生懸命だから、見ていて面白いな。
「アハボね、オーケー。アハボは、この蔵書庫の所管?」
「はははははいっ。」
「紙は食べないの?」
「え…?」
真面目な顔して問い掛けると、物凄い緊張しながら返答をくれる。なので、少しからかってみた。
すると、素で間抜け顔を曝してくれる。
「ああああのっ、たた食べないですよっ?よ羊皮紙は動物の皮なので、植物性ではないですから。」
すぐに我に返り、訂正してきた。
うん、真面目だな。
それよりも、植物性かどうかが重要なのか。
「そっか、そりゃ良かった。ご飯になりそうな物が目の前にたくさんあると、気が散るだろうからさ。」
クククッと笑いが溢れるが、本人にしてみれば死活問題だろう。
魔族とはいえ、皆が遊んで暮らしている訳ではないのだ。
「まま魔王様は、そそそその、お茶目な方なのですね。ボクが気配で、か勝手に緊張しているだけなのに、それをフワリと和らげてくれたりするのですから。」
ポッと顔を赤らめるアハボ。
いや、毛色が白いから、分かったんだけどな?
「おぉ~、顔色が分かる。獣人魔族でも、変化が見えるんだ?」
思わず顔を覗き込む。
ダミアンは変態過ぎて比較対象にならないけど。インゴフは蛇顔過ぎて、判別不可能だったんだよな。
人と違って、こういった多種族の感情表現を把握するのは難しいぜ。