4.魔王にサカらないで下さい─4
「あぁぁ…ぁ…。」
不意に押し殺した様なダミアンの声が聞こえ、自嘲気味に俯いていた俺は顔を上げる。
何故こうなった?
俺は呆然とダミアンを見てしまう。
いや、待て。今のは明らかにおかしくはないか?何でコイツ、イってやがる?
執務机に向かって立っているダミアン。それは先程立ち上がったからであって、問題ない。
だが己の身体を両腕で抱き締め、恍惚と在らぬ方を見て、全身を痙攣させているのは何故だ。
「ダミアン…?」
様々な感情をおさえ、俺は静かにダミアンに声を掛ける。
「は…っ!申し訳ございません、魔王様っ。思わずイっ…。」
「うるさい。」
我に返ったダミアンの言葉を途中で遮り、俺は溜め息をつきながら額を押さえた。
「してないのか。」
「していますっ。ですが…。」
「黙れ。」
俺の問いに即答したダミアン。
そうか、アレだけでは完璧ではないのか。
「言い訳はいらない。で、原因は。俺がいるからではないだろ。」
そもそも、随分前から俺はダミアンと二人でいた。
今までは普通に─真面目に仕事をしていた筈。
「は…い…。あの…魔王様、の…お心の内を…聞きまして…、その…。」
「それだけでか?」
「は…い…。申し訳ございません、魔王様。」
シュンと項垂れるダミアン。
叱られる大型犬に見えなくもない。
見えなくもないがっ。
「…着替えてこい。そして今日一日、俺に接近禁止。」
「あ…ぁぁぁ…、魔王様…。」
可能な限り感情を抑え、言い捨てた。
すがり付くようなダミアンの視線を無視し、椅子から立ち上がる。
約束は約束だからな。ってか、大丈夫かよ、コイツ。
内心の呆れは見せず、無表情を徹する。
ともあれ、やる事がなくなってしまったな。
空を見上げるが、まだ中天にも差し掛かっていない。
自然と溢れそうになる溜め息を堪え、俺は蔵書庫─この魔王城の図書館みたいなものだ─に向かう。
◆ ◆ ◆
そこはさすがというか魔王城なだけあって、置いてある本は紙ではない。尚且つ、内容も普通の本でもない。
「ま、魔王様っ。」
扉を開けると、カウンターのような場所で座っていた所管の山羊顔獣人が慌てて立ち上がる。
身体つきはほぼ人間なのに、頭部は完全に山羊の魔族。
「やぁ…。中を見させてもらうけど、問題ない?」
とりあえず、愛想良く言ってみた。
魔王知識で来てみたけど、大丈夫だったかな。
「はははははいっ。どどどどうぞっ。」
もう、これ以上ないと思うほど、噛みまくりの山羊だ。
何処かで聞いた事のある焦り方だな…と思ったけど、つい先程、ダミアンの執務室で会った熊耳のアルドだと気付く。
そんなに俺、怖がられてるのか?