3.魔王の補佐は誰ですか─10
「それじゃあ、ワシも休ませてもらうとするかの。」
何故か次に動いたのは、インゴフだ。
そして毛むくじゃらの手足があるにも関わらず、蛇の胴体をクネクネ動かしながら、玉座の間から退室する。
いやいや、ちょっと待て!俺を残して行くなよっ。
焦った俺は思わず目でインゴフを追ってしまった。
「…魔王様は、彼がお望みですか?」
その声に顔を向けると、ウルウルとした瞳で見つめてくる銀髪と視線がぶつかる。
いや、本当に…ちょっと冗談じゃないぞ。
ひきつりそうになる顔面の神経を総動員して、俺は必死に無表情を作る。
「何でそうなる。お前等が退室しないのは勝手かもしれないが、俺はもう寝るからな。」
真顔でこちらを見ているコンラートとも視線を合わせたくない為、立ち上がった俺は玉座に背を向けようとした。
で、問題に気付く。
俺の部屋、筋肉バカのコンラートに…破壊されなかったか?
「どうなされました、魔王様。何かご所望であるならば、この私めにお声掛け頂ければ幸いにございます。」
発言のチャンスだと思ったのか、コンラートが胸に手を当てて頭を下げた。
いや、視線だけはしっかり俺に向けてるって、マジ怖いから。何それ、脅迫?
「いや、コンラートは持ち場に戻れ。」
平生を装って、淡々と告げる。
変な恐怖でひきつりそうになるが、必死に表情を取り繕う。
「では、わ、わたくしでございますか?」
それはやたら期待に溢れた、キラキラとした声だった。
いや、顔を見なくても、明らかにダミアンの声は弾んでいる。
「…部屋に呼ぶ訳じゃないからな。ダミアン、廊下の壁を直せ。」
俺は誤解されないように、コンラートのいる前でハッキリと命じた。
本当にもう、変な噂とかするなよ?
「はっ。畏まりましてございます。」
そんな命令に対してでも、凄く嬉しそうにダミアンは頭を下げる。
それで良いのか、とも思うが、自分だけに言い付けがあった事自体が嬉しいのかもしれない。
本当に良く分からん。
「そうですか…では、私めも失礼させて頂きます。」
漸く諦めたのか、コンラートがそう告げた。
立ち去る背中に若干の罪悪感を抱きそうになる。
だが俺は、そんな面倒な事をするくらいなら、完全に魔王に染まるものかと、強く心に刻んだのだった。
あ…勿論、ダミアンはその後、ちゃんと壁を直してもらったぜ。ただし、部屋の3歩先には入らせなかったけどな。
それでもおかしな視線を感じて、完全に壁を塞がれるまで、全く眠れなかったんだからなっ。