3.魔王の補佐は誰ですか─9
「四魔将軍は?」
「それは、次期宰相候補の、方々です。今現在、各方面の、人族討伐に向かっている事も、その一貫ですので。」
インゴフは淡々と答える。
魔王の側近である宰相や四魔将軍は、魔王が勇者に討伐された時点で、すぐに代役が務めるようだ。
恐らく、過去幾度の魔王交代の際も、こうやって来たのだろう。
「俺の選択権は、選ばれた次期宰相候補から、宰相を決める事だろ?」
「それがまず、初めの政務に、なりますな。」
インゴフは、ペロリと細い舌を出し入れする。
うん、やはり蛇だな。
「分かった。んじゃ、とりあえず今日はここまでな。もう遅いから、お前達もしっかり休むんだぞ。」
俺は片手を上げ、次期宰相候補の五人に告げた。
とりあえず、長い一日がこれで終わる。そう思っていた。
「お待ちください、魔王様。」
コンラートが立ち上がった俺を呼び止める。
何だよ、解散って言ったろ?
俺は少しムッとして振り返った。
「そうです、魔王様。まだ本日の夜伽の相手を、ご指名頂いておりません。」
ダミアンが言葉を続ける。
………は?
今、俺の頭の上を、デッカイ烏が飛んでいったぞ。
「何…。」
問い返そうとして、不意に頭の中で魔王記憶が再生された。
…マジか。
「そうよぉ、蒼真ぁ。わっちはいつでも準備万端よぉ?」
「あたしは…待ってなんか、いないんだからねっ。」
「俺は呼ばれんでも良いがなぁ?」
ミカエラが科を作り、アルフォシーナはそっぽを向き、フランツは首を竦める。
も、もしかして、これがあったからコイツ等…戻ってきたのか?
俺はかなりパニックになっていた。
いやいや、待て待て!つい今日─正確には分からないけど、俺の意識的な─まで、普通の高校生だったんだぞっ?!
そんなの知るかよっ!ってか、要らん!!
「…必要ない。」
若干声が震えていたかもしれないが、可能な限り平生を装って答える。
いや、本当に…それ以上何も言ってくるなよ?
「そっかぁ、良かった、良かったぁ。んじゃ、俺は戻るな~。」
元々乗り気でなかったフランツが、早々に背を向けて玉座の間から退室する。
「残念…じゃ、ないんだから。おやすみなさい…。」
少しだけ項垂れながら、アルフォシーナが退室していった。
「もぅ~、恥ずかしがり屋なんだからぁ。でも…、後でコッソリ、わっちを呼び戻しても良いからねぇ?んじゃ、おやすみ~、蒼真っ。」
何もしなくても大きな胸を、更に強調して見せながら、投げキッスをしてミカエラも退室する。
ってか、お前等も早く帰れよっ。
口に出しはしないが、俺は目の前の銀髪と茶髪に胡乱な視線を向けた。