3.魔王の補佐は誰ですか─6
「良いじゃないのぉ、彼が魔王様でも。わっちは好きよぉ?あの黒髪、触りたいわ~。前の魔王様も真っ黒だったけど、全身毛むくじゃらじゃあねぇ?それに、見るからに固そうだったものぉ。」
ミカエラは、背に隠したアルフォシーナを突き出す事はせず、世間話のようにフランツに話し掛ける。
「前の魔王様は立派な犬歯を持った、獣人タイプだっただろ~?俺は、あの魔王様の方が良かったぜ~。」
「魔王様は代々、身体の一部に黒を持つのじゃ。お前達も見たじゃろう?以前の人族としての彼は、黒い髪と黒い瞳を持っていたのじゃ。」
ミカエラとフランツの言葉を受け、インゴフが説明を加えた。
って、おい。俺は黒髪だったから、指名されたってのか?
「今の魔王様は、美しい金色の瞳をしておられるのです。これは我々と同じく、魔族の証明。ですが以前の魔王様の瞳も、それはそれは素晴らしくお美しい黒でした。御髪の黒とは違う輝きを持ち、光が当たる場所ではもう、宝石のようにキラキラと…。」
「ダミアン、うるさい。」
着替えが終わったダミアンが、時間差入室早々の語り。
延々と魔王様談義をされても迷惑である。
恍惚とした表情で語り始めた時点で、俺はストップをかけた。
「あぁ…申し訳ございません、魔王様。あの時の魔王様の様子を、是非とも語りたく…。」
「不要だ、ダミアン。我々とて、このお方に魔力を注いだ身。魔王様と連結しているのは、立場も皆同じ事だ。」
ダミアンの言葉を遮り、コンラートが淡々と告げる。
何だか、色々と難しいらしい。
「ねぇ~、魔王様ぁ。人族の時の名前は、何て言うのさぁ?」
睨み合う銀髪と茶髪をすり抜け、金髪ゴージャスウェーブのミカエラが、科を作りながら言い寄ってきた。
人族、か。逢見蒼真であった頃の話は、もう誰も興味がないのだと思っていた。
皆は魔王を求めているのだから、と。
「蒼真、逢見だ。まぁ、発音が難し…。」
「へぇ?蒼真って言うんだねぇ。」
俺が諦めていた事を、すんなり叶えてしまうミカエラ。
ダミアンもインゴフも、まともな発音じゃなかったんだ。もう誰も、俺の名を呼ばないと思っていた。
「…なぁに?そんな泣きそうな顔してぇ。わっちが慰めてあげるよぉ?」
いつの間に近付いたのか、不意に耳元でミカエラからそう告げられ、余程みっともない顔をしていたのだと気付く。
「いらん。」
片手で顔を隠し、玉座に座った俺を覗き込むようにしているミカエラから視線を逸らした。
情けない。たかが名前を呼ばれたくらいで、こんなに動揺するとは。
どうあっても、もう元通りにはなれないのだから。




