プロローグ─3
それよりもコイツ、自分の名前を名乗ったではないか。
つか、長いんだよ。
「デミ…、ルー…?」
分からなかった。
食い物みたいな言葉だったかも。
だいたい、横文字なんて聞き慣れないんだ。一度でハッキリと復唱出来るかっての。
「どうか…ダミアン、とお呼び下さいませ。」
「あ…、ダミアンね。オーケー。」
長々と聞き取れない名前を言わされるよりもマシだ。
俺はそう思い、早々に人外の呼び名を脳内メモに書き加える。
ってか…何でイきそうな顔してんだ、コイツ。
俺が名を呼んだ直後、恍惚とした表情で身悶えているダミアン。
「…おい。」
呆れと軽蔑の視線で見上げる。
って…俺は今、コイツに姫抱きされてるんだった。
空中に留まっているから、誰に見られるでもないんだが…怖い絵だよな、これ─男同士の姫抱き─って。
「は…っ、申し訳ございません。つい、嬉しさのあまりタッ…。」
「それ以上言うな。15禁にしたくはないんだ。」
我に返ったかと思うと、ピー用語を堂々と言い放つところだった。
本当にイきそうだったのかよ。…変態か。
「も、申し訳ございませんっ。魔王様に名を呼んで頂き、恐悦至極に存じますあまりにボ…。」
「おいっ。」
頬を紅く染め、潤んだ瞳で何を言うつもりだ。
いくら見た目がイケメンでも、変態は却下だろ。いや、それでも良いという変わり者はいるかもしれないが、少なくとも俺は却下だ。
「下ネタ禁止。お前の下半身事情はどうでも良い。」
頭を抱えたくなってきた俺は、大きく溜め息をつきながら告げる。
だが、この変態には伝わらなかったようだ。
「ですが魔王様。我々の感情はペ…。」
「ぅおいっ!」
バシッ。
思わずその場のノリから、スナップを利かせ、手の甲で突っ込んでいた。
…ヤバい。
いくら変態と言えども、コイツは人外。善人を装っていても、感情が下半身に直結しているとか言っている時点で、既にアウトだろ。
「……………。」
恐る恐る見上げた。
って、確実にイってるっ。
全身を小刻みに震わせながら、口を半開きで恍惚と在らぬ方を見てやがる。
俺、変なのに拾われた気がする。物凄くするっ。
「ぁあぁ……とうとう、シャ…。」
「喋るな。」
「ですが、セ…。」
「うるさい。」
「しかしながら、わたくしの…。」
「黙れ。」
いたちごっこ、と言って良いのか。
ダミアンが口を開く度、俺は警告する。
とにかく、ひたすらピー用語を口にしたいらしい変態と、俺はどう接すれば良いんだ。