3.魔王の補佐は誰ですか─5
俺は次期宰相候補の五人を前に、大きく溜め息をついた。
今は場所を移動し、とりあえずのところ、玉座の間に全員を並ばせている。ついでに、インゴフも叩き起こしてやった。
…深夜だがな。
「…で?お前等、他に言いたい事はないか。」
玉座の肘掛けに片肘をつき、胡乱な視線で見回す。
各々の態度は、これまた様々だ。
インゴフは俺の傍に立ち、真っ直ぐ次期宰相候補達を見ている。
フランツはそっぽを向いて、気に入らなさ感をバリバリ醸し出していた。
アルフォシーナは、何故か食い入るように俺を見ている。
ミカエラはやたらと身体をくねらせ、自らのボディラインを見せつけるかのようだ。
コンラートは…、この場合の普通か。筋肉質の身体を小さく丸め、床に片膝をついている。
「とにかく、俺が新しい魔王だ。お前等はインゴフから選出された、次期宰相候補の五人である事は知ってる。だが、あくまでも候補者だからな。俺が気に入らなければ切り捨てるから、それだけは覚悟しておけ。言いたい事がないならこのまま解散だ。各々の持ち場に戻れ。」
次期宰相候補達から発言がなく、意見がないものと見なして、それだけ言い付けた。
だが、誰一人としてその場を動かない。
何なんだよ、いったい。
「どうした。」
涌き出た怒りを押さえ付け、問い掛ける。
「コイツも人族だろ?」
フランツだ。
この赤髪は、初めから俺の事を小バカにしている。
「以前は、だ。」
俺は事実だけを述べた。
「何でこんなちっさい人族の命令に従わなくちゃなんねぇの?」
不満を口にするフランツは、他の次期宰相候補達に問い掛けているようだった。
だが、ちっさいは余計だぞ。お前等がデカいだけだからな。…傷付くだろ?
ダミアンが俺との身長差から210センチだとすると、フランツは200センチといったところか。コンラートはダミアンより大きいから230センチ、ミカエラは俺より少し大きくて180センチだろう。
安心出来るのはアルフォシーナだ。恐らく、150センチ程。一番小さいのは、明らかに彼女だ。
「何だよ。違うのか?アル。」
「ちっさい言うなっ。」
ムッとしていたアルフォシーナに問い掛けた途端、フランツは噛み付かれていた。
いや、本当にガブッとな。
「ぅおっ?何すんだよ、アル!」
フランツはアルフォシーナの頭を鷲掴みしようとするが、捕まえる前に逃げられ、ミカエラの背に隠れられてしまう。
「後で覚えてろよ?アル。」
噛み付かれた腕を撫でるフランツは、ジロリとアルフォシーナを睨んでいた。
その左腕には、しっかりと歯を立てられた後が付いている。
あ、勿論、血は出てない。歯形が黒く刻まれているだけだ。