3.魔王の補佐は誰ですか─1
少し頭を冷した後、一度だけ廊下を覗いてみた俺。
あ、実際に扉を開けて俺が出なくても、闇影で偵察可能だ。
闇魔力で影人形を作り、操るだけ。見聞き可能で、影人形の大きさや形は、俺のイメージ。
超便利だろ?
で、結論。アイツは一人で楽しそうだった。
俺に怒鳴られた事が快感だったのか、全身で痙攣しながら恍惚とした表情を浮かべてたよ。しかも、廊下で。
…本当に変態だ。
あの時の扉前の衛兵達、凄く困った顔してたな。
その後の俺?当たり前にふて寝してやったぜ。まだ明るかったけどな。
おかげで今、ギンギンに目が冴えてる。
外には月が昇り、美しい夜空が広がっていた。
月はここでも綺麗なんだが、何故か紅い。そういえば、太陽は白かったな。
空は青くて木々は緑、土は茶色っぽいから、日本と─いや、地球と変わらないんだけど。
窓枠に身体を預けるように、俺は外をボンヤリと見ていた。あ、ガラスははまってないな。
…いかん、暇すぎる。かといって、今はもう寝られない。
だが、外にはダミアンがいる。闇影で確認済だ。
アイツ、衛兵を追い払って、勝手に部屋の入り口の真ん前を陣取って座ってるんだよ。
部屋に帰って寝ろっての。
う~ん…、腹も減ってきたな。あのバカのせいで、夕飯を食べ損なったじゃねぇか。
下を覗き込み、その高さに溜め息が出そうになる。ここが凄く隆起した崖の上に建っているのは、ダミアンに連れて来られた時に確認済だけど。
この窓の下は、まさしくそれ。下が見えない程の高さだ。
何、これ。脱走防止?侵入者対策?
ともあれ、ダミアンみたいに羽根がある奴は入ってこれるんじゃね?
そう思った事が切っ掛けか─いや、思いたくはないけど─突然目の前に黒い影が現れる。
月を背にしている為、全貌は分からない。だが、人形だ。
蝙蝠のような膜状の翼、長い赤い髪。そして魔族である、金色の瞳だけ確認出来る。
「へぇ~…?アンタがぁ…。」
ジロジロと無遠慮な目で見られる。
俺自身はコイツと初対面だが、魔王の記憶から判明した。次期宰相候補の一人、フランツ。
「…何だ。こんな時間に無作法な奴だな。」
平生を装い、睨み付けてやる。
次期宰相候補達は、俺の感情と魔力の起伏を敏感に察する事が出来るように、自らの核と連結させているのだ。
「そう?魔族に夜中とか関係ないっしょ。あ、とりあえず挨拶しとくよ。俺はフランツ・ナスタージス・ベル。色々と宜しく?魔王様。」
人を小バカにしたような話し方で、敬意もくそもないフランツ。
おい、インゴフ。これが二人目とかって、人選が適当すぎはしないか?