6.魔王と並び立つもの─10
「あ~……。俺だってこういうの、当たり前だが慣れてないんだ。……幻滅したか?」
格好良く気障な台詞を続けられない俺は、張りぼての『魔王』を取り払ってミカエラと共にやってきたリミドラに小声で問う。
ミカエラとアルフォシーナは気を使っているらしく少し離れているが、有事には一足で傍に来られる距離でもあった。
「いいえ……、むしろ安心しました。僕……あ、私は獣人族なので……その、魔王様の御相手には相応しくないのではないかと……今更ながらに、あの時の自分の行動を自己嫌悪してまして……。」
リミドラがぽつりぽつりと呟く。
恐らく推測するに、そのような内容で周囲から蔑みの言葉を投げ付けられてきたのだ。
俺は守ってやれなかったその時のリミドラを思い、悔しさと苛立ちを覚える。何の為に『影』をつけていたのかと、自分の頭を叩きなくもなった。
もはや全てが今更ではあるが、そんな彼女の頭を少しだけ強引に己の胸に押し付ける。
「その時に言えよ、ったく。……何処の誰だか知らないが、そんなくだらない事を誰が言おうが俺が都度完全否定してやる。俺はリミドラが良いんだ。」
俺はもう一方の腕を彼女の細い腰に回した。
切っ掛けはリミドラ自身の保身だったかもしれないが、今はもう違う。そう断言出来る俺は、リミドラがもそもそと腕の中で動く事を心地好いと感じていた。
そして顔を上げたらしい彼女は、ゆっくりと身体を伸ばして俺の首筋に甘噛みをする。
「ありがとう、ございます。僕……私も、魔王様が良いです。……でも嫌がらせには、ちゃんと自分で対応しますね?」
お互い『甘噛み』行為の意味を知っている為、照れが隠しきれずに赤面しあった。
けれどもリミドラはただ守られているだけは嫌なようで、やられたらやり返すと微笑みながら宣言する。
「そうか、それは頼もしいな。……けど黒蝶は必ず傍にいさせろ。それと、わざわざ『僕』を『私』に言い直さなくて良いぞ?それも可愛いからな。」
「ワフッ?!」
額に口付ければ、赤面している顔が更に色濃くなった。
けれどもそれすら可愛く思えるのだから、もはや俺は彼女の全てを受け入れてしまっている。
「俺と共に生きてくれ。」
「は、い。勿論です。僕も魔王様と生きていきたいです。」
静かに抱き合いながら、俺はリミドラと心を交わした。
「あ、一つ頼みがあるんだ。俺と二人でいる時に、『蒼真』って呼んで欲しい。」
「ソーマ、様?」
慣れない呼び方に、リミドラが片言で返す。
それでも当たり前だが、俺は『魔王』でありながら『蒼真』でもあるのだ。
今はミカエラだけでなく、隼人も俺の名を呼んでくれる。でもやはり一番大切な人に、俺の名前を呼んでほしかった。
「うん。ありがとう、リミドラ。」
俺は自然と笑みを返す。
その顔を見て更にリミドラが真っ赤になっていた理由は、何度聞いても教えてくれないので分からないままだった。




