6.魔王と並び立つもの─9
「いや、本当。マジで俺だって恥ずかしいんだ。お前だけじゃないさ、リミドラ。」
熱い顔を隠すでもなく、俺は頬を掻きながら告げる。
魔王である事に変わりはないのだが、リミドラに対していつまでも取り繕っていても堅苦しくなるだけなのだ。
「はい……、僕も、その、恥ずかしい、です。……でも、魔王様と……その、結婚、したい、です。家族に、なりたいです。」
「お、おぅ。なろうな、家族に。」
「はいっ。」
お互いが真っ赤になったままではあったが、きちんと意思の疎通をはかれたのである。
その後は本当に慌ただしく時が過ぎた。
ダミアンには即、リミドラとの婚儀を進めるように伝達。同時に人族の国との和平協議も滞りなく事が運び、無事に調印も終了する。
隼人には残る三国の人族の国に幾度か足を運んでもらい、向こう五十年の不可侵条約を交わしてもらった。
本当言うともう少し長期に渡る交渉をしたかったのだが、何分人族の寿命が短すぎる。子々孫々と条約を違わないと誓える程、人族の国が安定していないとも言えた。
「おぅい、そっちはどうなってる~?」
窓の外で、大声で叫んでいる誰かの声が聞こえる。
今日は城中が騒々しく、誰も彼も慌ただしく走り回っているようだった。
「ちょっと蒼真、動かないでよ。」
「あぁ……、悪い。」
隼人に小さく怒られ、俺も同じように小声で謝罪する。
周囲には当たり前のように従者たる魔族がいるのだが、現時点で俺に触れているのは隼人だけだった。──とはいっても、最後の仕上げをしたいと言う彼の意思を周りが尊重してくれただけであるが。
「魔王様。リミドラ様の用意が整いまして御座いまする。」
「あぁ、分かった。」
コンラートの声に振り向く事なく答えると、そのタイミングで隼人の方も終わったようである。
「よし、これで完璧。」
その声に、これまで隼人で見えなかった目の前の鏡が視界に入った。
きっちりと後ろに撫で付けられた髪はいつもの俺ではなく、金色の装飾の入った詰襟の衣装もいつもより豪奢である。
──いよいよ結婚式か。
他人事のように内心で呟くも、事実俺とリミドラとの婚儀だ。
流れの一通りはリハーサル的にやった為に覚えてはいるが、これが本番となると覚える緊張が違う。
──心臓飛び出そう……、ないけど。
こういった場合に女性が緊張する事は分かるのだが、男も当たり前にどぎまぎするのだ。特にいざというとき時に強い女性より
男の方が心は繊細だからな。
まるで断頭台に立つ前のように全身を強張らせていた俺は、リミドラに申し訳ないが内心で早く終わる事ばかりを願っていた。




