6.魔王と並び立つもの─8
勿論彼女への話の内容とは、先程の会議の件だった。
「悪いな、リミドラ。とりあえず座ってくれ。」
リミドラにソファーを勧めながら、深呼吸を繰り返して強制的に走る心音を落ち着けようとする。
「あの、隼人様は宜しかったのですか?僕、追い出してしまう形になってしまったのではありませんか?」
耳を横に倒し、不安そうにリミドラが問い掛けてきた。
俺の挙動不審な態度が、更に彼女を不安にさせているようである。
「いや、そうではないんだ。そもそも隼人の来訪の方が予定外だからな。」
「そう……なのですか?」
「あぁ。」
漸く少しだけ落ち着いた俺は、リミドラの向かいに腰を掛けて紅茶の用意を始めた。
招いたのは俺だし、テーブルに準備してあるお茶を出すくらいは出来る。思い返せば初めの頃、それすらもリミドラに遠慮された。
「ところで話というのはだ。」
「……はい。」
カップを差し出し、面と向かってリミドラと視線を合わせる。
彼女の左側茶色右側白色の犬耳がピンとこちらを向いていた。鼻先が犬っぽい以外は殆ど人と変わらない見た目の、外見的には幼い少女である。
それでも俺と正式に婚約をしてからというもの、日に日に少女としてではない──女としての魅力を開花してきていた。
「結婚しよう、リミドラ。」
「ワフッ?!」
相対して実感した彼女への思いに、俺は気負う事なく告げる。
リミドラの方は心の準備が整っていなかったらしく、毛を逆立てて動揺を顕わにしていた。
──まぁ、俺も謁見の間で似たような感じだったしな。
先程の自分を思い返して苦笑いを浮かべつつも、俺はゆっくりと席を移動してリミドラの隣に腰掛ける。
「まぁ、戸惑うのも分かるけどな。」
硬直している彼女の頭部をそっと撫でながら、リミドラの身体が拒絶反応をしていない事を確かめた。
──驚いてはいるものの、触れられる事が嫌ではないようだな。
「嫌か?」
そう判断しつつも、俺は更に言葉で確認をとった。
そもそも、ここで拒絶されては俺の心が折れる。
「ち、違いますっ。」
再起動したリミドラは、首がもげそうな程の勢いで首を横に振った。
一瞬、俺に頭を撫でられるのが嫌なのかと手を浮かせたが、それすら彼女から両手で頭部に押さえつけられる。
「あ、あのっ……違います、撫でられるのも気持……ち……良い……です……。」
そしてフェードアウトしていく言葉だった。
確かに、異性に『気持ち良い』とか──面と向かって言うのは恥ずかしいと、俺も顔が熱くなる。
「……で、返答をまだもらってないんだが?」
俯いているリミドラはそんな俺に気付いていないようなので、口では平静を保って問い掛けた。
「し、します、結婚……っ。」
そして弾かれたように顔を上げたリミドラと視線が合う。
つまりは赤面しているだろう俺を見て、彼女の言葉が止まったようだった。




