6.魔王と並び立つもの─7
「なぁんだ、そんな事かぁ。頭を抱えているから、また何かあったんじゃないかと心配になったよぉ。」
カラカラと笑いながら紅茶のカップを傾ける隼人である。
玉座の間の報告会に参加しなかった隼人は、俺が自室で羞恥に悶えている時にやって来たのだ。そして原因を聞いた途端、馬鹿笑いをしてくれる。
「そんな事ってな。こっちはかなり恥ずかしいんだぞっ。しかもそんなでも魔王然としてなきゃだし。更に頭の中じゃ、魔王知識が余計な事を映像として勝手に再生するんだ。俺のピュア・ハートを木っ端微塵にするつもりかってのっ。」
「くくくっ、ピュア・ハートって。単なるDT根性なだけでしょ、蒼真の場合。」
俺の本音の訴えを、隼人は容赦なく踏みつけた。
本当こういう時の悪友って、自分の過去を知っている分、一番質が悪い。
「でも、リミドラ様と結婚するんでしょ?」
そして急に真面目に問い掛けてきた。
本当、悪友って質が悪い。
「当たり前だ。そう決めたからな。」
俺はそれに対し、照れも冗談もなく真顔で答えた。
そんな自問自答はとうに終わっている。リミドラと婚約する前から、俺だって結構色々考えたんだ。
「うん、良かった。おめでとう、蒼真。」
そして平然と答えた俺に、物凄い温かい笑みを浮かべる隼人である。
途端、自分の顔に熱が集まるのを自覚した。
「な……っ、まだだろっ。気が早すぎるんだよ、隼人はっ。」
改めて──いや、初めてかもしれない──隼人からの祝福に、俺は動転してしまう。
ソファーから転げ落ちるようにして立ち上がると、真っ赤になっているであろう熱い顔を腕で隠した。
「魔王様?」
そこへリミドラが小首を傾げながらやって来る。──いや。約束をしていたのは俺だが、このタイミングだ。
勿論、赤面した顔を腕で隠している俺と、その目の前で爆笑している隼人を見てリミドラが固まっている。
「あ~……僕、もう少し後で来た方が良かったですか?」
戸惑いながらも、逸早く復活したリミドラが問い掛けてきた。
「っ、悪い。……大丈夫だ、リミドラ。問題ない。」
「そう、そう。蒼真は照れているだけだから。じゃあ、リミドラ様。俺はもう行きますんで。」
熱い顔をあまり隠せず、それでも彼女に変な気を使わせたくなくて応じる。
対する隼人は、カラカラ笑いながら手を振って部屋を出ていった。こういう放置の仕方は、正直言って結構困る。
退室する隼人を見送っていたリミドラの視線が、未だ拳で顔を隠している俺に向けられた。
──落ち着け、俺。
そもそも彼女に話したい事があり、闇魔力の黒蝶を使って呼んだのである。




