6.魔王と並び立つもの─4
人間──眠ってはならない時程、酷く睡眠欲求に屈しやすいものだ。雪山しかり、授業中しかり。されどダメな事をする背徳感も時に優越である。
俺は今、揺蕩う意識の只中にいた。
理知的に自分が人族の崩壊した王城跡にいる事は分かっている。しかし、感覚的には半分夢の中だった。
そこは何故か見渡す全てが金色で不可思議なのだが、収穫前の稲穂に囲まれているような高揚感に包まれている。
「終わっちゃったねぇ。」
声が聞こえ、俺は特に警戒もなく振り返った。そこには隼人の形をした神力の化身がいて、残念そうな口調ではあるものの表情は笑みを浮かべている。
「言葉程残念そうでもないみたいだけど?」
俺は魔王としてではなく、一個人としてそれに応じた。
──隼人ではない事はすぐに分かったし。
「うん、だって楽しかったもん。でも君の友達には無理をさせちゃって、ちょっと悪い事をしたかな。」
神力の化身の言葉は相変わらず軽く、言葉通りの感情を感じさせない。
しかしながらこれは人ではない為、言葉として表されている感情以外の何物でもないのだと思われた。
「隼人に悪いと少しでも思ってるなら、後で本人にフォローしておいてくれ。」
「そうだねぇ。」
それきり会話が絶え、俺達は何をするでもなく金色の世界で佇む。
「……そろそろ時間かなぁ。」
「そうか。」
「うん。……神力には制限を設けさせるよぉ。」
ポツリと呟かれた言葉に軽く返すと、意を決したように告げられた。
「まぁ……自国を潰しちゃダメだわな。」
「ふふふ、それもそうだよねぇ。……本当に色々、楽しかったよぉ……。」
その言葉を最後に、神力の化身と金色の世界が霞むように消えていく。
俺はそれを見つめながら、もう二度と会う事はないのだろうと思った。
そして次に目を開けた時、俺が見覚えのあるカーテンが視界に入る。そのまま視界を可能な限り動かす事で確信を得たが、ここは自室──つまり魔王城の寝室だった。
何で──と記憶の糸を手繰り寄せようとしたのだが、腕を動かそうとして外部から固定されている事に気付く。
「っ!?」
それを確認して驚きに息を呑んだ俺は、目を見開いたまま暫く硬直してしまった。
──待て。どうなっている。
自室のベッドに横たわっている俺の隣には、何故かリミドラが──しかも俺の腕を抱き込むように胸の内に入れて──すやすやと心地好さそうに眠っている。
思わず視線を逸らしたのは、彼女の服装が薄手の柔らかな寝具であるからだ。しかも案外胸元の柔らかさが──ごふっ。
ついこの間まで健全な高校生だった俺には、突然降って湧いたような出来事である。勿論まともに反応出来る筈もなく、情けなくも再度意識を喪失してしまったのだった。




