2.魔王として何をしましょう─10
「ふぅ…。起き上がれるか、ダミアン。」
俺はストレッチで身体を解し、未だ横たわったままのダミアンを見下ろす。
「は…、はい…。」
かなり辛そうではあるが、俺の言葉を受け、ダミアンはゆっくりと身体を起き上がらせた。
そして改めて見回すと、模擬戦とはいえ、かなり激しくやりあった感が残る鍛練場である。
地面は激しく抉れ、あちらこちらにヘコみやら傷やらが酷かった。
大丈夫だろうか。後でインゴフに怒られないだろうか。
「お待たせ致しました、魔王様。」
その声に振り返ると、ボロボロの様相でダミアンが立っていた。
「ん、行こうか。」
自力で立っているダミアンを見て、歩行が可能と判断する。
まぁ、俺が運んでやるのは無理だがな。…悔しいが、デカさが違う。
俺が先立って歩き出すと、ダミアンも僅かに足を引き摺りながらついてくる。
地下鍛練場から玉座の間まで来た頃、俺はダミアンに振り返る。
「ダミアン。お前、今日はもう良いよ。自分の部屋で休んでろ。」
「そ、そんな…魔王様…。わたくしが貴方様と共にいる事を、もはやお許し頂けないのですか…。」
気遣って言った言葉だったが、何故か酷く悲観された。
いやいや…お前、傷だらけじゃん?って、俺がヤったんだけど。
「違うって。回復に専念しろって言ってんの。」
責められている感じを受け、少しムッとして答える。
「どうか、どうかお傍にいる事を、お許し頂けませんでしょうか。」
それでもダミアンは、両手を胸の前で組み、請い願う態度を崩さなかった。
「あのなぁっ。」
聞く耳を持たないダミアンに、俺は声を荒らげる。
「貴方様のお傍にいる事が出来ないのであれば、この命など不要にございます。」
だが今度は何を思ったのか、その場に膝をつき、頭を垂れた。
なっ?!
驚く俺の前で、何故かダミアンは、己の剣を鞘に納めたまま差し出してくる。
「どうか、わたくしにお慈悲を…。」
「は…?」
思わず間抜けな声が漏れた。
ちょっと待てよ?何なんだ、その慈悲ってのは。
不意に疑問に思った事が、魔王の知識で検索される。
…殺れってか?!
「バーローっ!ふざけた事言ってっと、蹴り飛ばすぞっ!」
大声で叫び、ダミアンの掲げていた剣を蹴り飛ばした。
「気分悪いっ。もう寝る!誰も入ってくんなっ。」
それだけ吐き捨てるように告げると、俺は玉座の間に飛び込む。
ちなみに、玉座の間から俺用の部屋までは続きなんだ。
怒りに任せて駆け込んだのは良いが、後の事を考えてなかったな。
大きな天蓋付きのベッドに横になった後で、俺はそれに気付いた。