6.魔王と並び立つもの─3
『で、カリナ。リミドラが念話をしてきたのは、魔王城の報告の為だけか?』
本当はリミドラ本人に確認したかったのだが、会話が出来ないのであれば仕方がない。彼女には帰ったら直接聞く事として、カリナに用件の確認をした。
『はい、魔王様。リミドラ様は魔王様との会話を非常に楽しみにされておりまして、しかしながら報告以外の念話をする事に尻込んでなかなか自ら黒蝶に触れようとなさりませんでした。』
カリナから淡々と語られるリミドラの留守番の様子に、俺は照れ臭さと喜びに顔が崩れそうになる。
現状俺の回りに人はいないが、仲間を隼人捜索に向かわせているのだ。それなのに婚約者の話でにやけていては締まらない。
『んんっ……、分かった。リミドラには黒蝶は連絡ツールなのだから、もう少し気軽に使っても良いと伝えてくれ。』
わざとらしく咳払いをしてから、カリナに伝言を頼んだ。
『畏まりました、魔王様。ですが待つのも女の定めですので、あまりリミドラ様を甘やかされますと別の問題が生じるかと愚考致します。』
『あ~……、それも分からなくはないがな。とりあえず、こっちはもう少し掛かる。リミドラを頼んだぞ、カリナ。』
『はっ。』
キリッとした返事を受け、念話を終了する。
そして俺は、改めて周囲を見回した。
ここは人族の北の国である。だが神力核の暴発により、城は元より王都と思われる周辺の全てが瓦礫と化していた。
国の中心部分からの超爆発だったので、恐らくここはもう国家として成り立ちはしないと思われる。
そもそもの原因は人族の集めた『祈りの力』である為、魔族側に非はないと言いたかった。けれども他の人族の国でそれを易々と認める訳がない事も理解してはいる。
魔族の国としても城を攻撃されているので、被害の差はあれど戦なんてこんなものだ。
けれども何より、俺としては隼人の無事が最重要である。
もしこれで隼人に何かあれば──と黒い思考に陥りそうになった時、ダミアンの念話が届いた。
『魔王様っ。』
『どうした、ダミアン。』
聴覚は未だ回復してはいないが、条件反射的に周囲を見回しながらダミアンに応じる。
『隼人様を発見致しましたっ。』
『っ!?』
その返答に思わず駆け付けようと足を出し──スッ転んだ。
耳が悪いとバランス感覚も劣るのか、そもそも瓦礫の上に立っていたからなのか。魔王の力を継承して肉体的には強度が増している為、こんな場所で転んでも怪我などしないのが逆に不思議なくらいだ。
『魔王様?』
『あ、何でもない。こっちに連れて来れるか?』
若干自分でも情けなく思いながら、ダミアンに問い掛ける。
現状では、自分から向かう方が時間が掛かると冷静に判断した上だ。
『はい、問題ないかと。意識はございませんが神力の気配はなく、隼人様から魔力も感じられます。』
『そうか、少し安心した。引き続き神力の気配に注意しながら、戻ってくるように皆に伝えてくれ。』
『畏まりました、魔王様。』
ダミアンの念話を切った途端、酷く身体が休息を訴えてくる。
隼人が無事だった事に安堵したのが原因だろうが、まだ側近達は戻ってきていないのだ。今ここで意識を手放す訳にはいかない。




