6.魔王と並び立つもの─2
『魔王様っ、魔王様っ。』
ともすると眠ってしまいそうな疲労感に身を委ねていた時、俺の頭の中に一つの呼び掛けが届く。
その声音を聞いた途端、パチリとシャボン玉が弾けるように睡魔が消えた。
『リミドラ、無事か?』
そして相手に食い付くように問い掛ける。
彼女は魔王城にいて、先刻まで人族の奇襲にあっていた筈だ。
『あ、はい。僕は大丈夫です。襲撃も止んでお城にも大した被害はなく、今はカリナ以外の魔族達が周辺を細かく調査している最中です。』
俺の鋭い問いにも動じる事なく、リミドラはしっかりと魔王城の様子を報告してくれる。
見た目は幼いものの、さすが犬種を取り纏めていた長だけの事はあった。
『そうか……、良かった。』
『あ、あのっ。魔王様は大丈夫なんですか?』
安堵のあまり息を吐き出す俺に、今度はリミドラがこちらの状態を問い掛けてくる。
──まぁ、誤魔化すのは簡単なんだけど。
『俺は魔力切れと鼓膜の損傷。けど他の五人はピンピンしてて、隼人は行方不明で現在捜索中……って、リミドラ?え、お~い。聞いてるか?』
彼女には嘘を言いたくなくて、素直に現状を伝えたのだ。
しかしながら、リミドラからの反応は俺の状態を告げた後に分からなくなる。突然向こう側の応答が途絶えた事で、俺は彼女に何か会ったのではないかと心配になった。
『リミドラ?』
『魔王様、申し訳ございません。カリナ・ハーケでございます。リミドラ様は目下混乱の最中にありまして、私が後程御説明致します。』
何度か問い掛けて、やっと返ってきたのは別人の音声である。さすがに声だけで識別は出来なかったが、静かな声で別の女性が名乗りつつ応答してきた。
カリナは俺が鬼族鴉天狗種の中から、様々な面を考慮した上で選出してリミドラにつけた専属侍女である。そして彼女に預けている黒蝶を通じてなら、俺と直接念話が可能な事は事前に伝えてあった。
『そ、そうか。彼女には後で驚かせて悪かったと伝えてくれ。』
リミドラが混乱してしまったのは俺の言葉の選択が不味かったのだろう。若干反省しつつカリナに告げた。
『魔王様が謝罪など不要の事と存じます。様々な魔王様の御負担を軽くして差し上げるのがいずれ王妃たるリミドラ様のお役目。お怪我をなされたとあれば即座に駆け付ける程の気概がなくては務まりません。』
淡々とダメ出しするカリナは、それでもリミドラが俺の婚約者である事を否定しはしない。
これは堅物であるカリナらしいところだが、これを横で聞いているリミドラは言葉通りに受け取る為にダメージが大きいと思われた。
──もう少しオブラートに包んで教えてやってほしい。これは後でフォローが必要だな。
俺はそう、脳内メモに書き込んだ。




