5.魔王は暴走してはいけません─9
「お前、その意思は自分のものか?」
思わず眉根を寄せて問い掛けてしまった。
実際俺自身にしたって、魔王の記憶のせいで完全な俺としての意思を何度か奪われかけている。
「ん~?……さぁ~、どうだろうねぇ。だってこの思考って、何万という人間の願いや欲望から出来てるんだものぉ。自分が何なのかなんて、神力だという事しか分からないよぉ。」
隼人の顔で隼人の身体で、神力の化身はコテンと首を傾げて見せた。
俺よりデカイ隼人でもってそんな事したって全く可愛くはないのだが、コイツに友人を好き放題操られているという事実にムカつく。
「OK、分かった。とにかく俺がぶっ飛ばせば良いんだ。お前の意思も人間達の存在ももう知らん。隼人を返してもらうからな。」
そして俺は鋭く睨み付けると、魔王が暴走しない程度に闇魔力を解放した。
同時に、周囲になけなしの存在感を残していた城の壁が一気に吹き飛ぶ。恐らく今ので城の三分の一が瓦礫と化した。
「うほぉ!凄いねぇ、魔王ぅ~。」
「黙れ。」
「……ふへっ?」
何故だが喜んでいる神力の化身を一瞥し、俺は広がった闇魔力を一息に纏める。まるで風呂敷で包み込むように、神力の化身を上下左右漏れ無く確保だ。
途端に周囲の神力の気配が薄れる。
やはりこっちが本命のようだ。包み込む前に間抜けな声音が聞こえた気もするが、まぁ問題ないだろう。
俺はその間に巨大な金色の神力核を視界に映す。階下までは崩壊していない為、城の床部分だけ残っている瓦礫の中だ。
こんな状況でも傷一つなく、その輝きは一切濁っていない。悔しいが、これが『祈りの力』なのだ。
「さて、どうするか。」
神力核を目の前に、俺は腕組みをする。
間近に対峙してみれば、それがどれ程強大な力を有しているか嫌でも分かった。確かに暴発でもしようものなら、この辺りだけでなく大陸が超弩級隕石落下を受けたくらいのダメージを負いそうである。
俺の魔王としての力で包もうにも、今は神力の化身をオブラートしてて残量は半分も残っていなかった。それに現時点でも黒い球体と化している中で、奴は隼人を使って大暴れしてくれちゃってるしな。
──うん、仕方ない。
俺は神力核の暴発を食い止める事をやめた。それよりも隼人の方が大切だから。
「そうと決まれば早い。」
『おい、ダミアン。聞こえるだろ?』
『…………………………はあぁぁぁああああああっ、最高ですぅぅぅぅうううっ!』
気持ちを切り替えた俺は、自身の内部に向けて念話で呼び掛けた。──がしかし、聞こえてきたのは異常な雄叫びで。
『ちっ、変態がっ。……おい、コンラート。強めに奴のケツに蹴りを入れろ。』
『はっ。承り申した、魔王様。』
『ぎゃんっ!!』
苛立ちと共にコンラートに指示を出し、直ぐ様犬のような悲鳴が届く。
『おい、もう一度だけ聞く。ダミアン。返事をしろ。』
『はっ。……っ、聞こえております魔王様。』
再度念話で呼び掛け──今度は苦痛を堪えるようではあったが──、ダミアンから返答が返ってきた。
初めからそうしろっての。




