5.魔王は暴走してはいけません─8
「何を期待していたのかは知らねぇが、俺は俺のやりたいようにやる。土槍。」
言い放ちながら土魔力で槍を形成し、隼人の足元から突き上げるように先制攻撃を繰り出した。
だが隼人もその程度の魔法等効果がないとばかりに、ひらりと上空へ身を翻す。
「氷槍。」
そして俺も上空へ回避される事を見込んでいた為、用意していた氷の槍で前後左右から狙い撃った。
しかしながらそれすらも隼人の身体を掠めもしない。奴はその背の翼を大きく羽ばたかせる事で、俺の放った氷の槍を全て弾き落としたのだ。
「へぇ、やるじゃん。さっきまでの動きと全然違うねぇ。良いよぉ、もっとだよぉ。もっと楽しませてよぉっ。」
隼人の顔に醜悪な笑みを浮かべた神力の化身は、その手に持っていた聖剣を振り上げて幾度か素振りをする。
「……楽しみたいなら、その身体から出ろよ。そうしたら百パーセントの力で相手してやんよ。」
俺としては隼人を傷付けたくないのだ。こんな煽り文句くらいで隼人を手放してくれるなら最高だ。
闇魔力の剣先を下ろしたままの俺に、神力の化身は顎を突き出して不満顔を晒す。
「何だよぉ、いけずぅ。そんな事言ったって無理なものは無理ぃ~。肉体がなければ戦えません~っだぁ。」
更には舌を出して言い返してきた。
肉体がなければ──という事は、これの正体は力の塊か精神体となる。そもそも戦闘にすら意味がないのではと思ってしまった。
「あぁ、急に殺気が萎えたんだけどぉ。」
「……あの神力核を砕けば消えるか?」
気配に敏いのか、俺の戦闘意欲を的確に当ててくる。
これは俺が分かりやすいだけなのか──ともかく標的を変えるべきかと、視線だけで前方にある金色に輝く神力核を見た。
「あ~っとぉ、その核を壊したら大爆発だからねぇ?」
にこにこと笑顔で告げられても、それが嘘か実かは判断がつかない。
それに、俺に至っては現状で守るべき存在は隼人と己だけだ。ダミアンや四魔将軍達は既に俺に取り込まれていて、意識を集中すれば彼等の魔核を感じ取る事が出来る。──良かった、吸収分解とかされてたら発狂しそうだし。
「別に良いんじゃね?ここは人間の国だし、ボンといっても魔国まで距離があるからな。そもそも神力は人間が集めたものだから、暴発しようが掻き消えようが俺の知った事じゃない。」
「嘘ぉ、そうくるぅ?折角ここまで集めさせたのにぃ。」
俺の開き直りに、逆に動揺を見せる神力の化身だ。
更には『神力を集めさせた』とも告げている。──ならばこの存在は何なのかという、当初の疑問に戻ってしまった。
俺の知る『神力』とは力の名称であり、それ自体が一個の思考を持つものとは考えられない。




