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召喚魔王の俺  作者: まひる
第4章
233/248

5.魔王は暴走してはいけません─7


「なに……言って……る?」

 在らぬ方を見ていた蒼真の視線が隼人(神力の化身)に向けられる。




「え……?」

 ()抜けた声を漏らした隼人(神力の化身)の翼が一枚落とされた。

 これは神力で作られたものなので、隼人自身を傷付けるものではない。それ以上にその身に取り込まれた神力を()ぎ落とさなければ、現状彼の身の内に在る筈の魔核が押し潰されてしまうのだ。

「なに?」

「ふざけた事ばかりぬかしてんじゃねぇぞっ。」

 今だ要領を得ない隼人(神力の化身)の翼一枚を、再度振るった闇魔力の剣で切り落としてやりながら怒鳴る。

 聞こえたんだ──魔王の力に呑まれて意識が黒い海に沈んでいた俺だったが、はっきりとコイツが隼人を『呼んだ』と告げていた。


「え?力に呑まれたんじゃなかったの?」

「そうさ。けどお前に呼び戻されたんだから、今度はこっちに付き合ってもらうぜ。」

 何で戻って来れたのと唖然とした問い掛けがなされていたが、俺は構わずもう一太刀浴びせて神力の翼をもぎ取ってやる。

 闇魔力の剣を切り返そうとして、不意に自分の手が──いや、確認出来る部位が真っ黒になっている事に気付いた。しかもただ黒いだけではなく、闇魔力を(まと)って鎧のように硬質化している。


「何だ、これ。」

 思わず剣を握っていない方の手を広げて見れば、酷く爪が長く変化していた。

 ──まるでゲーム等で見る魔王みたいな……。

「ふふふ、今気付いた?それ、魔王の力だよ?今の君の姿を見せてあげようか。」

「はあ?」

 隼人(神力の化身)は俺の返答を聞くまでもなく、神力の何等かの技で己の前に壁のように鏡を作り上げた。

 恐らくは相手の姿を映すだけのものではない筈だが、意図せず自分を見せられた俺は目を見開いて硬直する。


 そこには全身真っ黒で、頭部に水牛の角を持つ異形の自分がいた。瞳の色は黒く、瞳孔だけが白い。あんぐりと間抜けに開けた口から覗く、有り得ない程に(とが)った牙は明らかに魔族──魔王と呼ぶに相応(ふさわ)しい容姿だった。

「どう~?人間をやめて魔王になった気分はぁ。」

 (あざけ)るように告げる隼人(神力の化身)は、俺の反応一つ一つを楽しんでいる。

 ──ちょっと待て、俺。

 内心の動揺を霧散させるように、瞳を閉じて大きく数回深呼吸をした。向こうは俺の反応を観察する為か、こちらの隙を狙って攻撃をしてきもしない。

 この野郎──事あるごとに俺の怒りを刺激して楽しんでやがるんだ。


 そして感情が振り切れた事もあって、一際(ひときわ)大きく息を吸い込み、吐き出すと共に俺は隼人(神力の化身)を睨み付ける。

「OK、待たせたな。」

「あれあれぇ?あんまり動揺していないようなんだけどぉ。」

 つまんなぁいと唇を(とが)らせて不満をアピールする隼人(神力の化身)だ。

 俺はそれを内心の憤りを見せずに笑みで返す。


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