5.魔王は暴走してはいけません─6
「何で……。」
思わず噛み締めた口から本音が漏れる。
隼人の中にあった神力核を二個とも、俺自身の魔力で魔核に換えた筈だった。いや──実際に隼人は魔力を使えたし、神力の気配は微塵も残っていなかったのである。
「だってぇ、この身体は凄く馴染むんだものぉ。」
胸に掌を押し当て、他人事のように告げる隼人だ。──真に中身は彼ではないのだが。
「後はぁ、この身体と核を融合するだけなのぉ。」
神力の化身は楽しい事のようにケラケラと言い放った。
今の隼人が神力核と融合してしまえば、勇者であった時よりも強大な神力をその身に宿す。もはや人ではなくなり、それこそ神格化してしまうのだ。
「させるかよ。」
そう答えると共に、俺は現状の魔力の暴走に抗うのを止める。
既に俺の中にダミアンも四魔将軍達も取り込まれており、誰も留める者がいなかった。守る者すらいないこの状況で、俺が箍を外したところで失うものはない。
「ふふふ、やる気になったぁ?」
隼人はその身に宿った神力を身に纏い、まるで天使のようにその背に白銀の翼を四対出現させた。
相対する蒼真の翼は一対で、反対色の黒である。──といっても暴走してしまった彼は己の意識とは関係なく、全身鎧のように闇魔力を纏っていた。
その瞳は眼球全てが黒一色となり、逆に瞳孔だけが白く抜け落ちている。大きく呼吸をする為に開いた口内には人では持ち得ない鋭い牙が並んでいた。
「ふふふふふ、やっぱり面白いぃ。魔王は神力の影響を良く受けてくれるしぃ、勇者は何処までも勇者だよねぇ。」
隼人は四対の翼を器用に操りながら、クルクルと風に舞う羽根のように踊る。
その間に蒼真は魔王としての変化を終えたようで、黒く覆われたその手の倍ほどある爪を大きく広げて隼人へ攻撃を仕掛けた。
「はぁい、残念~。そんな獣じみた攻撃じゃあ、傷付けるどころか掠りもしないよぉ。」
素早いだけの直線的な蒼真の攻撃に対し、隼人は何の抵抗も受けずにひらりと身を翻すだけで躱す。
その後も幾度となく蒼真の攻撃が振るわれるが、隼人に触れる事も叶わなかった。これは圧倒的な戦力差であり、問うべき力量すらない。
「つまんなぁい。やっぱり意識がはっきりしてないとダメなのかなぁ。今度の魔王は人間だったから、純粋な魔族より強力だと思ってたんだけどぉ。」
ひらりと舞いながら蒼真の攻撃を躱し、それでも不満げに唇を尖らせた。
「折角気分を盛り上げる為に身近な人間を勇者に選んだのになぁ。」
溜め息をつく隼人である。
そして誰も答えないその独り言は、空気を断つ程の攻撃を振るっている蒼真の耳にも届いていた。
2019,02,21誤字修正




