2.魔王として何をしましょう─9
「どうしたのさ、ダミアン。俺をナかせるんだろ?それとも、泣いてくれるか?」
俺は、ビクビクと全身で痙攣しているダミアンを見下ろしながら、彼の翼を踏みつける。
勿論、折らない程度には力加減をしているが、コイツには少し痛い目をみてもらわないとならない。
「まだ寝るなよ。水球。さっき俺に向かって、好き勝手な事をほざいてたよな?」
意識を失わないように、再びダミアンに水の球を当ててから言葉を続けた。
魔王となった俺は、過去全ての魔王の知識を継承している。
これが結構、大きい財産だった。
「俺の魔力の性質、分かった?」
軽く翼を蹴りながら、ダミアンに問う。
「ぁぁぁぁ…、ぜ…ん…です、か?」
息も絶え絶えに、彼は答えた。
うっすらと開けられた瞳が、俺をとらえる。
「そ。…お前は、氷と風だろ?それでも魔族の中では珍しい、二属性持ち。肉体の尋常じゃない強度と合わさって、強者であるという驕りが、お前の敗因な。」
魔族は基本的に一属性の魔力を持つ。その中で稀に、二属性以上の魔力持ちが存在するのだ。
そして、ダミアンはそれ。種族の中でも、上位の力を保持する魔族である。
だが全─全ての属性の魔力を有する魔族─は、皆無…いないとされていた。
「な…ぜ…っ。」
「分からないのか?仕方ない、ヒントな。…俺の肉体補整に、インゴフを含め、他に四人の次期宰相候補が絡んでるだろ?」
疑問を補うように俺が告げれば、ややあってから、ダミアンの苦痛に歪められていた瞳が見開かれる。
そう。様々な魔力を持つ魔族達が、俺の身体に己の魔力を注ぎ込んでいた。
「どうする?まだやる?…それとも、泣いて謝る?」
愕然としているダミアンに、俺は続けざまに問う。
するとダミアンは、その瞳を閉じた。
「…も…し訳…ございま…せんでした…っ。」
力なく答えるダミアン。
魔族である証の金色の瞳を閉じ、負けを認める事は、これ以上ない屈辱である。
「うん、仕方ないな。お前…それ、ずっとつけてろよ。」
「え…?」
「解除─全魔法─。…全く、何処からそんなものを持ってきたんだよ。ってか、こっちにもあるってのが不思議だがな。だいたい俺だって、実物なんか初めて見るっての。」
俺はダミアンから、闇の束縛を解除する。
命令に唖然としているダミアンだったが、俺は我関せずで独り言オンパレードだ。
いかん、いかん。15禁じゃないか。でもだいたい、何で男の股間を見せられなきゃならんのだ。
大きく深呼吸をすると、それなりに身体を動かした事もあり、晴々とした気持ちになる。
対するダミアンは乱れた己の服装に気が付かず、地面に横たわったまま、俺を見上げるだけだった。