5.魔王は暴走してはいけません─3
ダミアンの魔力属性は氷と風であり、聖剣によって流れ出ている色もその属性カラーである。通常魔族は負傷すると黒い靄となった魔力を傷口から漏らすのだが、聖剣は存在の源である魔力自体を垂れ流させるようだ。
「じょ……だんじゃないぞ……。っ、隼人!」
徐々に頭に染み込んできた状況に、俺は噛み付くように怒鳴る。
恐らくこんな状態でなければ隼人を殴り飛ばしていただろう怒りが今の俺を突き動かしていた。
「何してやがんだ、ボケ!さっさと剣を引けっ、ぶっ飛ばすぞっ。」
肉風船へ向ける魔力も惜しいくらい、俺は自分の感情を抑えきれない。
だが怒鳴ろうが威圧しようが、隼人は何の反応も見せなかった。
「魔王様。落ち着いて下さい。今は神力核を滅する事が先決かと愚考致します。」
「くそっ。」
酷く冷静な言葉を掛けてくるダミアンを睨む。
「やられてるのはお前だろっ、ダミアン。何諭してんだよ、アホかっ。」
「ふふふ。わたくしの為に魔王様が憤って下さるなど、恐悦至極に存じます。あぁ、この流れ出る魔力が魔王様に注がれ……。」
「る訳ねぇだろっ!チッ。」
こんな時に突如として変態を発揮し出したダミアンに乗り突っ込みをしつつ、俺は自己嫌悪から舌打ちをした。
自分を見失っている場合じゃない。今はダミアンの言うように、目の前の肉風船──神力核をどうにかしなくてはならないのだ。
見たところダミアンは魔核を傷付けられてはいないようである。そして隼人もダミアンを一突きした状態で動きを止めているのだ。
その光景自体が俺にとっては毒だが、今はどちらにしても動けない。対神力核への──この僅かにこちら側が上回っている天秤をむざむざ譲ってやる意味もないし、魔力を垂れ流しているダミアンが後どのくらい持つかも不明な為に早急に対処しなくてはならなかった。
「ダミアン。もう少しこっちに付き合え。」
「畏まりましてございます。」
奥歯を噛み締めての俺の決断に、ダミアンは薄く口元に笑みまで浮かべている。これは変態が稼働しているのではなく、高揚しているのだと分かった。
ダミアンが自分の血を見ると豹変──S気質化──するタイプなのは経験から分かっている。そして現状、出血どころか肉体を形成する魔力自体を流しているのだ。既にトリガーは引かれていると確信出来る。
「狂うなよ?」
「ふふふ、何を仰いますか魔王様。わたくしはいつだって狂っていますよ。」
心配して声を掛ければ、薄ら笑いのままダミアンが答えた。
頼むぜ、もう暫く大人しくしていてくれ。
俺は内心で隼人とダミアンの双方に祈る。




