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召喚魔王の俺  作者: まひる
第4章
228/248

5.魔王は暴走してはいけません─2


 俺は一つ大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出しながら己の魔力を広げていった。範囲は自分の周囲二十メートル程の、四魔将軍達が作り上げた空間内部である。

 視線を向ける事はしないが、感じる魔力からダミアンも同じように結界内部へ力を注いでいるようだ。

 火。水。雷。土。それにダミアンの持つ風と氷が加わり、俺の光と闇を合わせた全属性が神力と対峙する。


 神力は細かな種別としてもその一つのみだが、魔力はそれぞれが特化する事で属性として進化していると俺は考えていた。

 実際に手合わせしたのは勇者時の隼人だけだが、俺が持つ全属性の魔力と似たような感覚を覚えたのである。勿論魔力を魔法として使用する際にはそれぞれの属性に(かたよ)る為、相手との力が拮抗している場合には不利だった。

 それでもどちらかというと攻撃に関して強く、一種類に集中する分貫く力がある。そう感じたのだ。あくまでも俺の感想であって、そしてもうあの戦いは起こり得ないものだと分かっている。


 ──と、そんな回想をしている間に変化が起き始めていた。

 見るに耐えない肌色の肉風船の表面が(うごめ)いている。強風に(あお)られた海原(うなばら)のように、内部からではなく外部からの影響を受けていると思われた。

 もはや人としての反応を返す事はなさそうだが、表面の色が赤くなったり青くなったりと忙しい。見方(みかた)を変えれば苦しんでいるようにも見えなくもないが、かといって手を抜く事は有り得なかった。


「……っ。」

 不意にダミアンの苦痛に漏れた声が聞こえる。何事かと視線のみを動かせば、そこにあってはならない光景が見えた。

 目を見開き、同時に俺の思考が停止する。

 (まばた)きも出来ず、俺の瞳に映されたそれ。有り得ない事だと思いたいが──何故か長剣を持った隼人であり、その刃が深くダミアンを貫いている光景であり。

 ダミアンの足元に血溜りならぬ白い魔力溜りが広がっていった。これは聖剣による攻撃を受けた(あか)しであり、単に傷を負っただけの魔族に起こり得ない事象であるとこんな時に無意味に魔王知識が教えてくれる。


「ま……おう、様。」

 硬直していた俺に、苦し気なダミアンの声が聞こえた。

 その声に我に返った俺は(まばた)きを繰り返し、()いで現状を把握しようと試みる。

「はぁ……、お気を確かに。魔王様、隼人様は現在意識が混濁している模様です。」

 魔力を解放中の為にその場から動く事が出来なかったが、ダミアンの言葉に(ようや)く隼人へ意識が向けられた。

 確かに隼人の表情は(うつ)ろで、その瞳には何も映してはいない様子である。しかし握り締められた聖剣は間違いなくダミアンの腹部を貫いているし、柄を伝って流れるダミアンの魔力は隼人の腕を染めつつあった。


 ダメだ。頭が回らない。どうなっているんだ。


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