4.魔王の突撃訪問です─9
『あ……いいえ、僕からの報告です。』
『あぁ、そうか。うん。で?』
走りながらではあるものの、意識をリミドラに向ける事は造作もない。
俺はそれまでの心中のモヤモヤが吹き飛ぶのを感じながら、柔らかく彼女の言葉を促した。
『はい。先程から魔王城が神力と思われる攻撃を受けています。』
『っ!』
リミドラからの報せに、俺はゾワリと体内の闇魔力が蠢いたのを感じる。
怒りに我を忘れそうになったのだ。
「ま、魔王様?」
闇魔力を滲ませて立ち止まった俺に、前方を走っていた人族の男が驚きの表情で振り返る。
『お前は無事なのか?!』
だがそいつの対応に傾ける意識は欠片となく、俺は念話でリミドラに問い返していた。
『えっ?……は、はい。攻撃といっても魔王城の結界を揺るがす程ではなく、竜族を筆頭に鬼族鴉天狗種などの飛行種が迎撃をしています。被害状況で言えば周辺の森が煽りを受けて破壊されているくらいです。そちらの方は騎士団が飛行種以外の鬼族の方と火消しや避難誘導などの対応をしています。』
俺の勢いに戸惑い気味の彼女だったが、慌てる事なく報告をしてくれる。そしてその内容を聞いているうちに俺も落ち着きを取り戻してきた。
ダメじゃないか、俺が取り乱したら。──ってか、俺って怒りに弱いな。我を忘れるとすぐ魔王の魔力に呑まれそうになるのだ。
『ありがとな、リミドラ。なるべく早く帰る。』
『は、はいっ。』
自省した事もあり、彼女へ返した言葉は酷く甘い声音になる。誰だこれはと自分でも思った。
黒蝶を通してリミドラの体温が上昇した事を感じたが、それが異常ではない想像可能な反応なので問題ない。恐らく白い毛に覆われた皮膚は真っ赤になっているのだろうと推測する余裕も出来ていた。
「ま……魔王様、いかがなされましたか?」
「ん?俺の城が神力で攻撃されている。」
リミドラとの念話で冷静さを取り戻していた俺は、オドオドした様子で問い掛けてきた人族に事実のみを伝える。
「んなっ?!」
淡々と答えた俺の言葉が予想外だったようで、男はおかしな声を上げた。
同時に、コイツは俺の闇魔力に驚きはするものの怯えはしないよなと冷静に判断する自分がいる。
「もう良いよな。これ以上時間稼ぎをされると、マジで俺の堪忍袋の緒が切れるぜ。」
その驚愕に見開かれた人族の目を見るに、コイツ自身に俺を謀る意図はなかったようだ。
だが如何せん状況が悪い。この迷惑な構造の城もそうだが、神力核と対峙している四魔将軍達ともまともな連絡が取れないのだ。
「ここは押し切らせてもらう。土槍。」
俺は人族の返答を待つ事なく、神力の気配を感じる方角へ腕を伸ばして土魔力の攻撃を放つ。
一直線に前方の壁を貫いていった巨大な槍の後には、俺が余裕で素通り出来る道が一本残った。勿論その断面には家具やら人族らしい肉が転がっている。だが俺の視線はそれらを認識はすれども特別感情を左右させられる事なく、前方の神力核らしき白い光に向けられた。風穴を開けた途端に感じる圧力が強くなる。
そして背後で腰を抜かしている人族の男を放置したまま、俺は闇魔力を纏って高速水平移動をしたのだった。




